紅い芥子粒さん
レビュアー:
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本屋さんでタイトルを見たときは、帝国主義の戦争の話かと思った。本の帯を見ると「ウェルベック、惨殺⁉」と書いてあった。えっ、作者が殺される? これはおもしろそうと思い、本を手に取りレジに向かった。
主人公のジェドは、天才的な芸術家。孤独な生い立ちをした。
幼いころに母親が自死、建築家の父親は息子に無関心だったから、家庭というものを知らずに育った。
ジェドは、美術学校を卒業して、写真家としても画家としても大成功をおさめるが、ずっとひとりだった。
学校時代は友人をつくろうとしなかった。
恋愛はしたが、去っていく恋人を追おうともしなかった。
仕事上のパートナーとは、仕事が終わればつきあいも終わった。
絵画作品展覧会のカタログに文章を書いてもらうために、著名な作家ウェルベックの自宅を訪ねたのは、四十歳を過ぎたころだろうか。
ウェルベックは、ジェドに負けず劣らずの孤独な人生を送っていた。
ジェドの父、ジェド、ウェルベック。三人の孤独な男が出てくる。共通するのは、仕事の成功、富と社会的地位を手に入れていること、家庭も友も持とうとしないこと。
癌で苦しみ、最期はスイスでの安楽死を選んだジェドの父。
なにものかに惨殺されたウェルベック。
二人とも富裕なインテリらしく、死後に必要となる儀式や諸手続きの手はずを、生前からその筋に依頼してあり、死に方はともかく、きちんとこの世から退場していった。
エピローグには、三十年後のジェド。
孤独なまま年をとり、父と同じ病を得て、近いうちに死を迎えようとしている日々。
他者との濃密なかかわりを持たずに生きて、孤独に死んでいく。
もしかしたら、人類はこうやってゆっくり滅びていくのかもしれないーー荒涼とした読後感が残った。
ちなみに「地図と領土」という書名は、ジェドがアーチストとしてデビューした展覧会のタイトル「地図は領土よりも興味深い」に由来する。ミシュラン地図を写真に撮り加工した作品の展覧会だった。
掲載日:
書評掲載URL : http://blog.livedoor.jp/aotuka202
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:筑摩書房
- ページ数:462
- ISBN:9784480433084
- 発売日:2015年10月07日
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