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ぷるーと
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全米図書賞翻訳部門受賞を機に、再読。何度読んでも、ズシンとくる話です。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

上野公園でホームレスをしていた男が、上野駅構内に入り、自らの命を絶った。

その男は、福島県相馬の生まれだった。貧乏なのに子だくさんの一家の長男で、父の稼ぎだけでは弟や妹たちを養ってはいけず、早くから出稼ぎに出るようになっていた。兄弟たちが独り立ちし、ようやく自分が結婚してからも、子どもを育てるために出稼ぎは続いた。

盆と正月にしか戻ってこない父親に、子はなつかない。それでも、その子のために働き続け、仕送りを続けた。その息子が21歳で突然亡くなり、葬式の席で息子の友人の話を聞き、男は息子のことを何も知らないことを痛感した。男の心に、ぽかりと穴が開く。

それでも、男は、働き続けなくてはならない。60歳まで働いて故郷に戻り、大往生の父母を見送り、男は、ようやく妻と二人の静かな生活を手に入れた。
だが、6年後、男が朝目覚めると、男の隣の布団で、妻は冷たくなっていた。男の心の中に、また、ぽかりと穴があいた。

男のことを心配した娘の計らいで、孫娘が時々祖父の家を訪れるようになった。孫娘は、そのまま祖父と一緒に暮らし始めたが、男は心に開いた穴を埋めることができず、21歳の娘の将来を自分が邪魔をしてはといけないとも思い、かばん一つを持って家を出た。残してきた孫娘は、震災の日、車ごと津波にのまれた。
男は、上野駅構内に入り、自らの命を絶った。

男の母がかつて言ったように、男は「運がなかった」のだけなのか。だが、こういったたくさんの貧しい人々の下からの支えによって、この国は発展してきたのではなかったか。
なんともいえない悲しみで胸が一杯になる。こういう作品を書いてくれたことに、ただただ感謝している。
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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2931 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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