ぷるーとさん
レビュアー:
▼
全米図書賞翻訳部門受賞を機に、再読。何度読んでも、ズシンとくる話です。

上野公園でホームレスをしていた男が、上野駅構内に入り、自らの命を絶った。
その男は、福島県相馬の生まれだった。貧乏なのに子だくさんの一家の長男で、父の稼ぎだけでは弟や妹たちを養ってはいけず、早くから出稼ぎに出るようになっていた。兄弟たちが独り立ちし、ようやく自分が結婚してからも、子どもを育てるために出稼ぎは続いた。
盆と正月にしか戻ってこない父親に、子はなつかない。それでも、その子のために働き続け、仕送りを続けた。その息子が21歳で突然亡くなり、葬式の席で息子の友人の話を聞き、男は息子のことを何も知らないことを痛感した。男の心に、ぽかりと穴が開く。
それでも、男は、働き続けなくてはならない。60歳まで働いて故郷に戻り、大往生の父母を見送り、男は、ようやく妻と二人の静かな生活を手に入れた。
だが、6年後、男が朝目覚めると、男の隣の布団で、妻は冷たくなっていた。男の心の中に、また、ぽかりと穴があいた。
男のことを心配した娘の計らいで、孫娘が時々祖父の家を訪れるようになった。孫娘は、そのまま祖父と一緒に暮らし始めたが、男は心に開いた穴を埋めることができず、21歳の娘の将来を自分が邪魔をしてはといけないとも思い、かばん一つを持って家を出た。残してきた孫娘は、震災の日、車ごと津波にのまれた。
男は、上野駅構内に入り、自らの命を絶った。
男の母がかつて言ったように、男は「運がなかった」のだけなのか。だが、こういったたくさんの貧しい人々の下からの支えによって、この国は発展してきたのではなかったか。
なんともいえない悲しみで胸が一杯になる。こういう作品を書いてくれたことに、ただただ感謝している。
その男は、福島県相馬の生まれだった。貧乏なのに子だくさんの一家の長男で、父の稼ぎだけでは弟や妹たちを養ってはいけず、早くから出稼ぎに出るようになっていた。兄弟たちが独り立ちし、ようやく自分が結婚してからも、子どもを育てるために出稼ぎは続いた。
盆と正月にしか戻ってこない父親に、子はなつかない。それでも、その子のために働き続け、仕送りを続けた。その息子が21歳で突然亡くなり、葬式の席で息子の友人の話を聞き、男は息子のことを何も知らないことを痛感した。男の心に、ぽかりと穴が開く。
それでも、男は、働き続けなくてはならない。60歳まで働いて故郷に戻り、大往生の父母を見送り、男は、ようやく妻と二人の静かな生活を手に入れた。
だが、6年後、男が朝目覚めると、男の隣の布団で、妻は冷たくなっていた。男の心の中に、また、ぽかりと穴があいた。
男のことを心配した娘の計らいで、孫娘が時々祖父の家を訪れるようになった。孫娘は、そのまま祖父と一緒に暮らし始めたが、男は心に開いた穴を埋めることができず、21歳の娘の将来を自分が邪魔をしてはといけないとも思い、かばん一つを持って家を出た。残してきた孫娘は、震災の日、車ごと津波にのまれた。
男は、上野駅構内に入り、自らの命を絶った。
男の母がかつて言ったように、男は「運がなかった」のだけなのか。だが、こういったたくさんの貧しい人々の下からの支えによって、この国は発展してきたのではなかったか。
なんともいえない悲しみで胸が一杯になる。こういう作品を書いてくれたことに、ただただ感謝している。
お気に入り度:









掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
よろしくお願いします。
この書評へのコメント

コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:河出書房新社
- ページ数:181
- ISBN:9784309415086
- 発売日:2017年02月07日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。






















