書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

指名献本書評
かもめ通信
レビュアー:
祝 #新潮クレスト・ブックス #創刊20周年 読書会をきっかけにご恵贈戴いた本。とても面白くてどっぷりはまって楽しんだまではよかったのですが、実はコレ、レビューを書くのがものすごく難しい本だったのです…。
おぼろげな記憶をたぐり寄せ
自分が画家であったことを思い出した「私」は
自分の絵が1枚しか飾られていない部屋に
コズメの絵が4枚も飾られていることを嘆いていたが
その場に足を止めた一人の少年が魅入っているのは
他ならぬ自分の絵ではないかと自らを励ます。

けれども少年に声をかけてもその耳には届かず
どうやら彼には自分のことが見えもしないらしいと気づく。
そもそも自分はいったいなぜここに?
自分の終わりがまったく思い出せないのだから、
ひょっとして自分は死んでいないのかも?
自分の状態に疑問を抱きながらも
「私」は自らの人生を振り返る。

母の死をきっかけに幼い「私」は父と共に一つの選択をする。
これよりはフランチェスコと名乗りその才能を生かす道を歩むのだ。
生涯、胸に布を巻いて画家になるのだ。
なぜって芸術家になるには男である必要があるのだから。

なるほどそれが「両方になる」という意味か。
そう合点して読み進めるも、
読み手はやがてそれが早とちりだと思い知らされることになる。

物語は二つのパートにわかれ
一方ではルネサンス期のイタリア人画家フランチェスコ・デル・コッサの物語が
もう一方では現代イギリスに生きる少女の物語が描かれている。
両方の物語に共通するのは二人の主人公がそれぞれ愛する母を亡くしていること。
一方は絵に、一方は言葉に、強いこだわりと才能を持っていること。
過去と現代の両方をつないでいる不思議な縁。

様々な「両方」を頭の隅で考えながらも
文字が鮮やかに描き出す絵画に読み惚れ
韻や時制や綴りに含まれているのであろう様々な言葉遊びが
いかに翻訳されるか(あるいはされえないか)に思いをめぐらす。

数日間どっぷりはまって読みふける非常に興味深い読書体験だった。

だがしかし、なんといってもこの作品の一番の注目点は
著者がその仕掛けについては訳者解説など「本の中に絶対に書かないで欲しい」と
注文をつけた部分にあるものと思われる。
そこに触れずにレビューを書くことは、非常に難しい。
とはいえ、やはり、これから読もうという方のために、
ここは口を閉じておくことにしよう。

この本を読み終えた読者だけが語ることのできるあれこれを
誰かと語り合える日を心待ちにしながら。
    • フランチェスコ・デル・コッサ「聖ルチア」
    • フランチェスコ・デル・コッサ「5月の寓意」
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

読んで楽しい:4票
参考になる:32票
共感した:2票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『両方になる』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ