書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

darklyさん
darkly
レビュアー:
話のスコープが個人レベル、検察レベル、国家レベルと欲張りすぎているため話としては中途半端になった感が否めない。
以前、「検察のS」というなかなか緊張感溢れる横山秀夫を彷彿させる短編集を読み、注目していた作家の最新長編です。東京地検特捜部を舞台としています。

東京地検特捜部の検事である中澤源吾は現在の検察のあり方に疑問を持っている。有罪を勝ち取ることが至上命題であり、そのために筋書きに合致するよう証拠や供述を手段を選ばず揃えていくやり方だ。その疑問は単に中澤の正義感によるものではなくつらい過去からくるものであった。

また、東京地検特捜部の検察事務官の城島毅は司法試験にも受かるほどの頭脳を持ちながら事務官となった。実は中澤と城島は同じ高校の野球部員であった。そして中澤が検事に、城島が検察事務官になったのには理由があった。

それは、中澤の妹である友美が十数年前路上で刺され、その後ひき逃げされ死亡したが、犯人の暴力団員の不自然な供述にも関わらず事件は検察の方針であっさりと幕引きとなった。中澤はその事件を再調査する機会を窺うため検事となった。友美の恋人であった城島も同じ動機からまた検事と違って転勤がないことから検察事務官となった。

中澤は鷲田運輸社長による横領と脱税の事案を担当したが、検事としての正義にこだわるあまり強引な手法をとることができず立件できないまま、この案件は上司の預かりとなる。もちろんこれは後の伏線となる。

そして政治家のさして重要ではないように思われる公職選挙法違反の事案を城島と調査するうちに虎の尾を踏んだらしく自殺者、事故死者が相次ぐ。果たして中澤と城島の調査は何に行きつくのか。そして巨悪とは何か。

物語の冒頭、友美が悲惨な死を遂げる場面から始まることから、物語の最後には主人公たちが携わっている案件と友美の事件のつながりが浮かび上がり、妹のそして恋人の無念を晴らすハードボイルド的な大沢在昌の小説のような展開かと思いきやそういうわけでもありません。

検察の体質、内部のセクショナリズムや権力闘争と検事あるいは検察事務官としての矜持が中心に描かれる、まさに横山秀夫のような世界の話かと思いきやそれも中途半端です。

被疑者を論理的に追い詰めたり、証拠を突き付けて自供を引き出すような松本清張ばりの刑事ものにありがちな展開とも違います。ミステリーとしての謎解きもありますが、あっさりと全容解明します。

戦後日本社会のあり方や東日本大震災の復興予算に群がる政治家・民間企業の問題も描かれますが、山崎豊子のような社会派小説とまで言えるかと言えばそこまでの深さはありません。

そして最後には検事と検察事務官の大立ち回りまで出てきます。刑事じゃありませんよ、検事ですよ。

つまるところ色々な要素を盛り込み過ぎて結局中途半端な作品となってしまったのではないかというのが私の結論です。もっとも2時間ドラマにするには良い作品なのかもしれません。

個人的にはプロローグで友美の死の場面が描かれますが、作品の主題でないのだったら悲惨な死に方をそこまで詳細に描かなくてもと思ってしまいました。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

素晴らしい洞察:1票
参考になる:31票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『巨悪』のカテゴリ

登録されているカテゴリはありません。

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ