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Wings to fly
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国民的飲料誕生の物語から浮かび上がる、ひとりの明治男の人間的横顔。
来年はカルピスが誕生して100年目なのだそうだ。「初恋の味」をキャッチフレーズに売り出されたのは、大正8年(1919)の七夕の日である。
カルピスは、何でもすぐに飽きてしまう日本人に好まれ続けてきた。あの時々飲みたくなる白い甘酸っぱい飲み物をこの世に送り出したのは、三島海雲という男である。

三島が明治11年にお寺の息子として生まれた時から語り起こされ、清朝末期という激動の時代に大陸を目指した青年たちの話につながってゆく。カルピス誕生に行き着くまでの前置きとしては長尺だが、「教育」という側面から当時の日中関係を掘り起こしていて興味深い。

三島も大陸に渡った青年のひとりだ。教員生活を経て商売を始める。軍用馬の買い付けのためモンゴルへ旅立ち、遊牧民の部族「ヘクトシン旗」の人々と、彼らが作る上質な乳製品に出会う。三島はこの乳製品を後に日本へ持ち帰り、健康食品の事業を起こす。そして、試行錯誤の末にカルピスが生まれるのである。

著者は実際に、カルピスのルーツであるモンゴルの草原を、三島の足跡を追うように旅をする。遥か昔に日本からやってきた三島青年の記憶は、今もヘクトシン旗の人たちに語り伝えられていた。当時のヘクトシン旗の長と三島の間には、なんと深い友情が結ばれていたことか。友達だから、遊牧民にとって最も神聖な食物を帰国のお土産にくれたのだ、きっと。著者は遊牧民のパオの中で、彼らに見守られながら、カルピスの原点となった乳製品を口にする。

後半は、命名の由来をはじめ、モンゴルの乳製品がカルピスになってから現代までが描かれる。常に世のため人のためになる仕事を目指した三島の清廉さ、その反面、危うい経営手腕や思い込みが強すぎる性格など欠点にもかなり踏み込んでおり、頑固一徹な明治男の人間臭い横顔が目に浮かんでくる。

三島とモンゴル遊牧民との絆を仏教的な価値観の共有に求める推測、草原の住人達がカルピスを知らない理由や、時代と共に変わらざるをえない遊牧民の生活など、様々な出会いを経て広がってゆく著者の思索が、この評伝に骨太な読みごたえを与えている。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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