著者は害虫駆除の一般薬を開発・販売するアース製薬に勤務する女性である。彼女の仕事は何かといえば、研究開発に用いる害虫を飼育・調達すること。
薬品を販売するには、効能を証明するデータがいる。これを元に厚生労働省に申請し、認可を得て市場に出すわけである。「来年の夏に売り出そう」と思ったら、逆算してそれまでにこれこれの試験をしておかなければならないというのがある。
実験部門から、「幼齢期のクロゴキブリを来週中に300匹」とか「薬剤耐性のチャバネゴキブリ、雌だけで200匹」とか要請を受けて、虫を供給するのが彼女たち飼育部門の人々の役割なのだが、得てしてこの依頼が、ぎりぎりに来る。そんな無茶な!という大量の虫の要望にもなるべく応えられるように、使用されそうな害虫を、常日頃から十分量で飼育しておくのが腕の見せ所である。
そんな業務の中で得られた害虫たちの生態や特徴などを「楽しく」まとめたのが本書である。
タイトル通り害虫図鑑で、ゴキブリ、カメムシ、クモ、アリ、ハチ、蚊、ムカデなど、日本の代表的な害虫が数ページずつ紹介されている。
害虫というと嫌われ者の代表のようで、生命力も強くて飼育も楽だろうと思われそうなところだが、結構大変なのである。
ちょっとした温度の違いで羽化の時期が変わってしまうもの、放っておくと共食いしてしまうので分けなければならないもの、飼育は可能でも繁殖させることが難しいもの。
閉じ込めておくと、自分の臭いが臭すぎて死んでしまうカメムシや、カツオ節に安価なサバ節やアジ節が混ざっていただけでいつも通りには増えないイガなんて話を聞くと、なるほど「きらいになれない」憎めない奴らなのである。
おもしろいことに、著者はこの職に就くまで、大の虫嫌い。どうしてアース製薬の採用試験を受けたかといえば、地元の優良企業の正社員枠だったからという理由。入社当初はハエが夢に出てきてうなされたほどの彼女が、どうやって害虫飼育エキスパートになっていくのか、挿入されるコラムもおもしろい。
研究所育ちの虫たちは、基本、病原体を持たない。そのため、一部の虫たちは、制作会社の依頼を受けて、ドラマなどに出演することもあるそうである。
ドラマのシーンにゴキブリやハエが出てくることがあったら、エンドクレジットをチェックすると「アース製薬」の名前があるかもしれない。
虫の本だが、写真などはなく、全編、表紙と同じイラストレーターのイラストなので、虫嫌いの人でも抵抗なく読めそうである。
「害虫」とはいうが、彼らは彼らとして暮らしてきて、ヒトと虫たちとの生活環境が重なる中で、忌み嫌われるようになってしまったものたちも多い。とはいえ、病原体を媒介するものやアレルギーの原因となるもの、家屋を侵食するものなどもいるわけで、そうしたものはやはり避けなければならないだろう。
彼らの生態を知ることが、うまく「住み分けて」いくことの一助になるようにも思う。




分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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この書評へのコメント
- 風竜胆2018-11-02 10:53
クモは、害虫ではないような気が・・・。話題のゴケグモの類でなければ人間に対して特に悪さはしませんし、他の害虫を餌にしていますので。実家(田舎)に帰ると、ものすごく大きなアシダカグモが急に出てきたりしてびっくりしますがw クモだけは見つけても、そのままにしておきます。特に、ハエトリグモなんかは動きがかわいいし。でもゴキブリ、カメムシ、蚊、ムカデなんかは見つけ次第退治しますけど(ムカデは本当は他の害虫を食べてくれる益虫なんですが、刺されるはいやですし。学生のころ寝ている間にシャツの中に、大きな緋ムカデが入っていてちょっとトラウマになっています)。ハチとアリは微妙なところで、見つけたシチュエーションによりますね。
クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ぽんきち2018-11-02 10:42
風竜胆さん
そうですね、私もクモはどっちかというと益虫かなと思います。ゴキブリとか食べてくれるそうですし。前に住んでいた家は古い家で、アシダカグモのでっかいやつがえっさっさと歩いていたりしましたw 遭遇するとちょっと驚きますよねw
毒のあるクモもいることはいますが、クモはどっちかというと、イメージ害虫というか、何となく嫌いな人が多いので駆除されてしまう例が多いのではないかと思います。
ムカデはハチ毒に似た成分を持っていて、咬まれると痛いらしいですね。
アリはまぁいてもいいかなと思いますが、ハチは刺されるかもしれないのでやっぱ嫌かなぁ(といいつつ、うっかり家にアシナガバチに巣を作られたりしているのですがw)。
今年はスズメバチが多いというニュースも見ましたが、スズメバチは怖いですよね。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:幻冬舎
- ページ数:150
- ISBN:9784344033269
- 発売日:2018年07月26日
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