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efさん
ef
レビュアー:
言語学+ファースト・コンタクトものの異色SF
 本作は三軸で進んで行きます。
 一つはブラジル奥地に住む原住民たちの生活・文化。それを研究するためにフランス人学者が彼らと生活を共にするのですが、これがすこぶる奇妙なもので、彼らは特異な言語(従って思考体系)を持ち、キノコから取れる麻薬を常用し、呪術的とも言える儀式(?)を執り行います。

 二つ目は障害を持つ子供たちを回復させる手段として、子供たちに特殊な言語を教えようとしている施設。ここで語られるのが自己埋め込み型文(エンベディング)というものなのですが、その例として挙げられるのが結構有名な『ジャックがたてた家』という童謡です。
 これはジャックがたてた家
から始まり、どんどん文中の修飾文が長くなり、例えばその中間部は……
 これはジャックがたてた家
 に転がっていた麦芽
 を食べたネズミ
 を殺したネコ……
といった具合に、段々指示代名詞が指すものが何なのか、何を言っているのかが分からなくなっていくというタイプの文だと説明されています。

 この作品のベースとなるのは、こういった言語学。
 言語学をテーマにしたSFって時に見られますよね。本作もあの系列の作品と言っても良いのでしょう。
 人間は、言語によって外的事象を認識、理解するわけですが、ということは言語によりこの世界は構築されていると言うこともでき、さらにこの考えを突き進めて行くと……といった感じの理論が展開されます。

 実は、第一軸のブラジル奥地のネイティブたちも、この自己埋め込み型文(思考)を用い、この世界(の真相)を把握しているのだと言うのですね。

 ここまではSF色はあまり濃くないのですが、ここで唐突に第三の軸が始まります。地球に異星人がやって来るのです。ファースト・コンタクトですね。
 異星人は地球人と交易することを目的としており、実は異星人も言語によるこの世界、いや異世界の理解というような考えを持っているんです。そのために、地球の様々な言語のネイティブスピーカー6人の脳を提供すれば、高速通信や恒星間飛行の技術などを与えても良いと言う訳です。

 この異星人との交渉のために引っ張り出されたのが、第二の軸の施設で働いていた言語学者であり、また、異星人に提供する脳の持ち主として第一軸のブラジル奥地のネイティブが候補に挙がって来るという展開になり、三軸が交わるというわけです。

 なかなか興味深い作品であり、特に第一軸のネイティブたちの奇矯な文化の描写などは結構読ませます。ただ、全般的にこの作家さんあんまり巧くないかなぁという印象も持ちました。アイディアは悪くないのですが、それを書き切るだけの力量に乏しいという感じなんですよねぇ。

 巻末解説によると、イアン・ワトスンの作品はいくつか邦訳されたものの既に絶版になっている作品もあり、あまり日本では読まれていないとか。私はアンソロジーなどで何編か読んだことがあるのですが、「な~んか分かりにくい、読みにくい」という印象を持っていました(例えば、『スロー・バード』など)。

 その印象は本作も同様で、「もっと巧く書いてよ~」と感じてしまったんですね(巻末解説では、その辺りがワトスンの限界……とまでははっきり書いていませんが、そんな書き振りも感じました)。

 ということで、決して読みやすい作品とは言えないし、言語理論のくだりなどは十分に消化されているとも思えなかったのですが、異色の作品であることは間違いなく、一部評価も高い作品という事で、マニアックなSFをお探しの方にはお勧めできそうです。


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□□□     普通(1~2日あれば読める)/353ページ:2025/07/29
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ef
ef さん本が好き!1級(書評数:4915 件)

幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!

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