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darklyさん
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見せかけの「幸福の王子」が銅像となって真の「幸福の王子」となる物語。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

曽野綾子訳のオスカーワイルド「幸福の王子」です。

秋になり暖かいエジプトに行き遅れた少し利己的なつばめは「幸福の王子」像の下で一夜を明かそうとしていた。雨でもないのに雫がつばめに落ちる。「幸福の王子」が泣いていた。

生前宮殿の中で何不自由なく生涯を終えた「幸福の王子」は銅像となって街の哀しみに気づく。不幸な人々に自分の像に埋め込まれた宝石や金箔を困っている人々に持って行って欲しいとつばめに頼む。

越冬するため早くエジプトに向かわなければならないつばめだが「幸福の王子」の心に打たれて一日、また一日と人々のために運ぶ。つばめの心は暖かくなる。

やがて、「幸福の王子」は両目を人々に与え何も見えなくなった。「幸福の王子」をそのままにしておけないつばめ。そしてとうとう冬となり、つばめは。「幸福の王子」の鉛の心臓は割れた。残ったのは誰も振り向きもしないみすぼらしい「幸福の王子」とつばめの死骸。

常に人の目が行動の基準である市会議員たち。対照的に誰に知られるわけもなく、自らを犠牲にする「幸福の王子」とつばめ。「幸福の王子」を心配するつばめ。自らは何も無くなってしまったけれどもつばめのエジプト行きを喜ぶ「幸福の王子」。この二者の美しい思いやり。

しかし、
「僕がいくのはエジプトじゃないんです。死の家にいくんですよ。死というのは、眠りの兄弟ですよね。違いますか?」
死ぬことは怖くないんだということを自分に言い聞かせるつばめ。自らの依頼がつばめを死なせたことに気づいた「幸福の王子」の鉛の心臓は二つに割れる。

物質的に満たされた人生を送ったことで名付けられた「幸福の王子」は皮肉にも最後に本当の「幸福の王子」となるのです。王子の鉛の心臓は炉に入れても溶けませんでした。それは王子の心は不滅だという暗示なのでしょう。

誰に知られることもなく、誰からの評価も求めず、命という代償を払ってまで人を助けるという行為。もちろん簡単にできることではありません。しかし、少なくともこういう物語に感動する心だけは持ち続けていたいと思います。



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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. ランピアン2018-10-04 06:55

    私も大好きです。ちょっと気恥しいのですが。

    これを書いたのが、あの偽悪的なダンディ、オスカー・ワイルドだというのがまた泣かせます。

  2. darkly2018-10-04 19:25

    コメントありがとうございます。お気持ちよく分かります。(笑)私はキリスト教徒でもありませんし最後の神とか天使とかのくだりはどうでも良いのです。人は富も名声も何も持たずに去っていくわけですから、その去る時に幸福の王子やつばめのような満ち足りた心で去りたいと思うのです。

  3. ランピアン2018-10-04 22:33

    ほんとうにそうですね。そうありたいものです。

  4. 北山みや2018-10-04 23:21

    小学校の時、この本を比較的短期間に5回くらい借りてきて「また、幸福の王子を借りてきたの」と母親に笑われたのを思い出しました。
    すごく好きな作品です。オスカー・ワイルド作だったんだ。

  5. darkly2018-10-05 06:05

    コメントありがとうございます。恐るべき選書眼を持つ小学生だったのですね!この作品の素晴らしいところは小学生は小学生なりの、若者は若者なりの、そして私のようなおっさんにはおっさんなりの人生の経験に合わせてフィットさせてくるところだと思います。恐るべしオスカー・ワイルドですね。

  6. mari0022018-10-06 14:02

    私もオスカー・ワイルド作とは知らずに驚きました!
    子供の頃に絵本で繰り返し読んでいて、好きなお話しでした。
    懐かしい~

  7. darkly2018-10-06 14:49

    この本を読んで友達とかに、「この本オスカー・ワイルド作なんだぜ」とか言ってる子供いたら生意気ですけどね(笑)

  8. かもめ通信2018-10-07 16:37

    私はdarklyさんの紹介されているこの本が、あの曽野綾子氏の訳だということに衝撃をうけました。
    オスカー・ワイルドと曽野綾子とは!!

    ちなみにこの作品、別訳で平凡社ライブラリーの↓このアンソロジーに収録されていることで、かつてこのサイトでも物議(?)をかもしたことがありますw

  9. darkly2018-10-07 19:40

    コメントありがとうございます。私も曽野綾子訳ということで手に取った次第です。この小説はゲイという視点があるのですか!物語の最初につばめが葦に恋するところがありますが、葦のことを「彼女」と表現しています。するとつばめはバイセクシャル?(笑)

  10. かもめ通信2018-10-07 17:06

    darklyさん!ごめんなさい。私、先のコメントで「曽野綾子」さんのお名前を「曽根綾子」さんと間違って書いてしまっていたことにさっき気づき、訂正させていただきました。darklyさんも私につられてしまったでしょ?すみませんでした。

  11. darkly2018-10-07 19:40

    言われてみれば、ほんとだ!私も直します。

  12. Tetsu Okamoto2018-10-11 16:59

    『変態王子と笑わない猫』『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』というライトノベルでよく売れた作品の隠れたモチーフが『幸福の王子』になっています。前者は女性が読むのはちょっと抵抗があるかもしれません。どちらもアニメ化されています。

  13. darkly2018-10-11 19:08

    コメントありがとうございます。モチーフと言いますと、ゲイですか?

  14. Tetsu Okamoto2018-10-12 03:56

    いえ、自己犠牲と無償性です。

  15. darkly2018-10-12 05:42

    失礼しました。そのままのテーマなのですね。女性が読むのはちょっととありましたので、ついかもめ通信さんのコメントと結びつけてしまいました。

  16. Tetsu Okamoto2018-10-12 06:34

    どちらのアニメもよくできているのですが、『変態王子と笑わない猫』のテーマがわかるのはアニメでは最終回までみてからになります。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』でテーマがみえてくるのはアニメでは6話くらいです。第1話からみえるひとにはみえるのですが。『変態王子と笑わない猫』のオープニング田村ゆかり『Fabtastic Future』はオリコン5位に2013年になっています。変態王子のほうでは主人公の変態王子の尊敬するひとがオスカー・ワイルドだというのがいきなりわかるようになっています。ただ『幸福の王子』については直接にはでてきません。

  17. darkly2018-10-12 09:18

    お教え頂きありがとうございます。ツタヤで探してみます。

  18. サカナ男爵2018-10-17 17:53

    これは素晴らしい作品ですよね。
    幼い時童話で読んだのがずっと心に残っている作品でした。
    誰からも善行を評価されなくても、相手を思いやり行動することはとても尊いと思います。

  19. No Image

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