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Wings to fly
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「善きドイツ人も民間人も関係なく、自分の国が暴走するのを止められなかったのは、あなた方の責任です。」 憎悪と敵意に支配されない未来への、祈りのこもった作品である。
1945年の夏、17歳のアウグステは米軍の食堂で働いている。肌身離さずにいる鞄の中には、両親の愛に包まれて育った過去とつながる唯一の品物、ケストナーの『エーミールと探偵たち』英語版が入っている。反ナチを貫いた彼女の両親は、同胞に殺された。

英米ソ仏4か国連合軍の統治下にある、敗戦直後のベルリン。瓦礫の町にひとりで生きる少女の数日が、とある殺人事件と絡めて描かれる。しかし、本書はミステリーとして読むべきではないように思う。幕間にはアウグステの過去が挟み込まれ、これが実に胸迫る物語なのだ。

父は若い頃には共産主義者で、母は隣のユダヤ人一家に最後まで親切にし、ポーランド人の盲目の少女を匿う。自分の信念を貫いて生きた両親は密告され、“移住先”でユダヤ人が何をされているのか突き止めてチラシを撒こうとした人々は、逮捕されたまま戻ってこない。激しい差別感情がどんな風に広まってゆくのか、貧しくとも温かい家庭がどんな風に破壊されたのか、ひとつの価値観に社会が染まってゆく様子が、迫真の描写で描かれてゆく。

ドイツの反ナチだった人たちは、連合軍が来たら自分たちを自由にしてくれると信じていた。しかし、連合軍の軍人は、ドイツ人は皆がヒトラーの信奉者で同じ思想を持っていると思いこんでいる。
「みんな戦争が悪いんです。」と言うアウグステに、ある人は告げる。
「あなたも苦しんだでしょう。でも、これはあなた方が始めた戦争だということです。善きドイツ人も民間人も関係なく、自分の国が暴走するのを止められなかったのは、あなた方の責任です。」

もしバラの花の前に、”○○な人は見学禁止”という立札があれば、それを引っこ抜いて、誰にでもバラを見せてあげる人になって欲しい。「わかる?」とアウグステに父は言った。このような社会の中では、その行為がどんなに勇気がいることかはわかる。憎悪と敵意に支配されない未来への祈りをこめて、この本は書かれたのだろうと強く感じた。戦後という混乱期、罪の意識も悲しみも恨みも、様々な感情に寄り添って書かれ、そのひとつひとつに心が揺すぶられる。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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