「本物の読書家」では、語り手である私が、あまりなじみのない大叔父を老人ホームに送り届ける列車内でのエピソードが描かれる。大叔父は川端康成からの手紙を持っているとの噂があった。列車内で同席した関西弁の奇妙な男・田上。彼はやたらと文学に詳しかった。作中に挿入される名作の一節。そして明かされる康成の名作「片腕」のある秘密。
「未熟な同感者」では、主人公の阿佐美が入ったゼミ。ゼミでは文学談義が行われる。ゼミ生は男1人に女3人。そこの「先生」には奇妙なクセがあった。ゼミの途中で必ずトイレに行くのだ。それは授業を円滑に進めるため、女子大生を前にして抑えきれなくなった性欲を処理しに行くのだと噂されている。そしてゼミ生の美少女・間村季那。彼女にもある秘密があった。
全編を通じて、色々な名作の一節が挿入され、あたかも作者が「本物の読書家」であることを主張しているかのようだ。しかしそれは本当だろうか。作中に次の一節がある。
世間一般の言い方に当てはめるなら、私はささやかな読書家ということで間違いなかろうと思う。しかし読書家というのも所詮、一部の本を読んだ者の変名に過ぎない。(p10)
たしかにあれだけの数の本が毎日のように出版されているのだ。いくら長生きをしても全部を読めるわけではない。例えば私の部屋だが、まだ読んでない本が何百冊単位で積み上げてある。処分も時にはしているのだが、減るスピードよりは増えるスピードの方が圧倒的に速い。全部の本を読むことはできないという意味でこの主張には賛成である。
しかし、世の中で「読書家」と呼ばれる人たちの間には大きな問題があると思う。それは、読む本が、文学作品や古典が中心になっており、理工系の本や専門的な本を外していることである。まさか、こういった本は読む価値がないと思っているのではないと思うが(思っているとしたら自分で世間を狭くしているだけだと思うのだが)。仮に読んだとしても、通俗的な一般書くらいである。読んでいると、読書の対象は文学だけではないということを、声を大にして主張したくなってきた。
昨年は2月に腎盂炎、6月に全身発疹と散々な1年でした。幸いどちらも、現在は完治しておりますが、皆様も健康にはお気をつけください。
- この書評の得票合計:
- 44票
| 読んで楽しい: | 3票 |
|
|---|---|---|
| 素晴らしい洞察: | 4票 | |
| 参考になる: | 35票 | |
| 共感した: | 2票 |
この書評へのコメント
- 武藤吐夢2018-11-13 12:52
読書の対象が文学に偏るのは、本屋さんの売るスタンスによるのではないでしょうか?。今、本屋さんに入ると、目立つところに平野さんの新作と、百田さんの歴史の本。その後ろのあたりに、村田さんのコーナー。今月映画化される原作本。売れ筋がずらっと・・・。ほとんどが小説なので、客は、それらの本を買います。読みます。理工系の本が売れないのは、読書好きが文系中心だからだと思います。古典が読まれるのは、時間の審判を受けていて残るにふさわしいからだと思います。最後の言葉は、村上春樹のノルウェーの森の中からの引用ですが・・・。
クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 武藤吐夢2018-11-13 18:10
すごいですね。僕の知ってる理系は、ガリレオシリーズのようなミステリーしか話しが合わないですよ。僕は、化学、物理は無理です。両方読めるのは、さすがですね。博学でなきゃできることではありません。文系の人間は、オタク化傾向があり、おもしろいと思う本をいきます。同じ作家ばかり読んだり、時には、専門書、ラノべばっかりいくこともあり、好きなものを食い荒らします。僕もこのタイプです。理科系の専門書を意図的に外しているのは、僕には、おもしろくない(基礎知識の欠如)からで、他の文系の人もそうだと思います。もしくは、他に興味がある本があるです。
文学=読書というイメージは、大手の本屋さんが、客に読ませたい本を誘導しているんじゃないかと思うのです。だから、売れる本。文学。それが読書のイメージになったと思っています。壁を作らず、誰かに洗脳されず、ただ、ひたすら、おもろい本を読みたいと、僕は思っています。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 風竜胆2018-11-13 18:32
>m181さん
まあ、最近は文理問わず本を読まない人が増えていると聞きますし。でも、何かで読んだのですが、ちょっと理系の専門書の扱いはひどいみたいです。なにしろ、開けもせずにそのまま返品するというのですからw
まあ、理系の本が売れないというのは世界共通のようで、故ホーキング博士の本に、編集者から数式が一つ入るごとに売れ行きが半分になるといわれたということですww
ガリレオは、よく物理ミステリーといわれますが、あれは工学ミステリーですね。物理ミステリーと言い張るなら、量子力学、素粒子論、天体物理学、一般相対論なんかをトリックにしてほしいのですが、まずできないでしょうww 最近はネタ切れなのか(最新刊はまだ読んでませんが)、肝心の犯行のトリックに使われるよりは、その他の部分で使われることが多くなっている気がします。
私も気の向くままに興味を引いた本を読んでいますが、悲しいのは、他の人があまり興味を持たないところでしょうかwwクリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
コメントするには、ログインしてください。
- 出版社:講談社
- ページ数:224
- ISBN:9784062208437
- 発売日:2017年11月24日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。
























