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献本書評
たけぞう
レビュアー:
体の死は怖くない。怖いのは心の死だ。
第二次世界大戦中のドイツの強制収容所の物語です。
日本ではアウシュヴィッツの印象が強すぎますが、地獄はまだまだあったのです。
ラーフェンスブリュック。毒ガス室はもちろん、人体実験までしていた
狂気の収容所です。

『コードネーム・ヴェリティ』の本が好き! での評判がものすごくて、
姉妹編のこちらを手にしたとき心に湧き立つものがありました。
読後、静かに震えました。とてつもない力のあるシリーズです。

あとがきで理由が分かりました。
小説の形式をとっていますが、この物語にはたくさんの事実が混ざっています。
一部で実名も使っていますがエピソード的にとどめており、
物語の軸はフィクション形式です。
では何がフィクションかというと、主人公のローズ・ジャスティス一人に
降りかかったという部分です。

ローズ・ジャスティスは、実は一人ではありません。現実世界では。
著者が聞いた沢山の事実を、ローズという主人公に託して伝えているのです。
一つ一つのエピソードはすべて事実なのです。
人間はここまでのことをするのかという、狂気をまざまざと見せつけられます。

アメリカ人の民間飛行士のローズ・ジャスティス。
軍の関係者のロジャーおじさんの口利きで、
イギリスの補助航空部隊の所属となります。
18才。本当は高校卒業前なのに、半年も繰り上げてもらったのです。
仕事は軍用機の移送です。サウサンプトンの工場からイギリス南部の空軍基地に
様々な軍用機を届けるのです。

パリが解放され、ローズはフランスに行きます。
そこでも軍用機を運びますが、あるとき、輸送中に出会った
ドイツのV1ミサイルが運命を変えます。
輸送部隊のパイロット仲間の情報で、ミサイルのすぐ下に翼の先端を近づけると、
気流の乱れを起こしてミサイルを落とせるというのです。
ポーランド人飛行士たちに伝わるテクニックで、タラン(激突)という技です。

ローズは輸送飛行中にパリに向かうV1ミサイルと遭遇し、
追いかけて見事タランを成功させますが、気がついた時にはドイツ機に
囲まれていました。
ドイツ側に強制着陸させられ、収容所送りとなります。そこは地獄でした。

理不尽な状況です。しかしドラマチックな盛り上げはありません。
経験談に基づいて書かれているので、ノンフィクションの良さと
小説の良さをあわせ持っているのでしょう。
変なあおりがないぶん、真に迫る恐怖があります。

ウサギと呼ばれる人体実験をされたポーランド人たち。
処刑が決まった囚人をかくまい、必死の抵抗を続ける者たち。
誰かを逃がすために、身代わりとなって死んでいく者。
身代わりの番号の入った囚人服は、ひょっとしたら
天国への切符に見えたのかもしれません。

この作品は事実なのです。
途中で囚人番号の取り換えシーンがあったときには、叙述トリックかもと
思いましたが、そんな安っぽいミステリーではありませんでした。
逆に、読んでいるこちらの心に、そんなことで救われたらという
悲惨さから逃げようとする気持ちが芽生えたのかもしれませんが。

こころを守るため、全身全霊をかけて小さな抵抗を続けた人たちの
魂の物語です。

困りました。『コードネーム・ヴェリティ』を読まないわけには
いかなくなりました。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

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この書評へのコメント

  1. yasuko yoshizawa2018-11-14 07:30

    こんにちは。訳者の吉澤康子です。素晴らしい書評をありがとうございます。著者の思いをしっかり伝える仕事ができたかなと、うれしくなりました。

  2. たけぞう2018-11-15 23:11

    >吉澤さん
    コメントありがとうございます。わたしは翻訳も作品のひとつと思っていまして、この作品の素晴らしさに翻訳が大きく貢献していることは間違いないと感じています。これからも素晴らしい作品をお待ちしています。
    とりあえず、コードネーム・ヴェリティに進もうと思います。

  3. No Image

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