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三太郎さん
三太郎
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東日本大震災から3年後の仙台での暮らしを綴ったエッセイのような小説。著者と彼の奥さんの日常が描かれている。
著者の佐伯一麦氏は仙台出身の作家で同じ高校の同窓生だ。彼の小説を読むのはア・ルース・ボーイ 以来二冊目だ。

小説が描き出すのは大年寺山の上にあるらしい彼ら夫婦の住む集合住宅とその周辺での出来事だ。細かなエピソードの中に震災から3年目という時期の刻印がうっすらと感じられる。

小説で主人公の早瀬が訪れるのは大年寺山の野草園や、東一番町の南の端にある戦後の闇市の名残のある横丁だったりするが、これは著者の生活圏が仙台市の南側にあるからだろう。著者の実家も大年寺山の近くにあるらしいので、このあたりが著者の子供の頃からの生活圏だったのだろう。

実は僕が生まれ育ったのは仙台市の北側で、実家は東照宮の近所だった。JRの仙台駅を中心に置くと、東照宮は駅の北側で、大年寺山が駅の南側になる。そして駅の東側に彼が卒業した-そして小説ア・ルース・ボーイの舞台になった-仙台一高が、西側には青葉城跡がある。仙台市の北側で育った僕は市の南側に行く機会はあまり多くなかった気がする。

早瀬(この名前は広瀬川からとったのかも。大年寺山の麓は広瀬川だ)と妻の柚子がよく訪れる野草園はバスが大年寺山を登っていく途中にある。

早瀬らの部屋の窓からは、天気がよければ東側に遠く太平洋とその手前の貞山堀の水面が光って見えるという。(僕の生家も坂の上にあったから家の裏山に登ると太平洋と仙台港に入る石油タンカーが見えた。)

山の上らしく家の周辺にはカモシカやタヌキが出没する。何種類もの小鳥(渡り鳥や留鳥)の囀りやこれも何種類ものセミの声が季節により移り変わっていく。住居には専用庭があって枝垂桜や合歓の木や山椒の木が植えられている。山椒にはアゲハ蝶が卵を産み付け芋虫が育っていく。

桜の木にアメリカシロヒトリ(蛾)が発生して駆除する話では、僕の子供の頃、庭の梅の木にアメリカシロヒトリが大発生した事件を思い出した。

庭にネジバナが咲くというのはちょっと意外だった。僕は横浜に住むまでネジバナを知らなかったから、関東以北では育たないのかと思っていた。

柚子さんは関東の生まれらしく、仙台に来るまで無花果(イチジク)の甘露煮を知らなかった。実はイチジクの甘露煮は仙台とその周辺の地方でしか作らないことをこの小説で始めて知った。僕も子供の頃は庭のイチジクを甘く煮たものをよく食べたので、これは意外だった。(甘露煮に使うイチジクはまだ青いものに限ります。小説中にレシピの説明があります。生食用の品種では難しいかも。)

柚子さんが近所の八百屋で尾花沢産の大きなスイカを買う話も懐かしい。僕も子供のころ、山形県の尾花沢から軽トラックで売りに来たスイカや種なしブドウをよく食べた。

この小説は仙台での僕の子供時代のいろいろな出来事を思い出させる。仙台市の中心部は50年前とはずいぶん変わったけれど、続いているものもあるのだなあ。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:827 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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この書評へのコメント

  1. noel2022-02-04 16:58

    このひとは、ひょっとして『ピロティ』とかいうマンション管理員の話を書いたひとでは?

  2. 三太郎2022-02-04 18:47

    そうみたいですが、読んでいません。

  3. noel2022-02-04 19:57

    やっぱり。

  4. 三太郎2022-02-05 08:27

    文庫化されていたら読んでみたいところですが・・・

  5. noel2022-02-05 11:11

    単行本でしたね。登場人物というより、著者のやさしさが伝わる本でした。

  6. No Image

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