かもめ通信さん
レビュアー:
▼
噛めば噛むほど味が出る。じんわりと味わっているうちにいつしか「幸福な悲しみ」に酔いしれる。
時々、翻訳小説が苦手な理由の一つに
登場人物の名前が覚えられないということを挙げる人がいるけれど
一度に何冊かの翻訳小説を並行して読み散らかしている私は
そのいい加減な性格のせいでもあるのだが、
元々、登場人物の名前を積極的に覚えようという気が無い。
物語の終盤になって、
あらこの人のこの名前、本人の役どころを象徴していたのか!などと
気づいて驚いたりすることもあるけれど
たいていの場合、登場人物の正確な名前を把握していなくても
物語を読み進める上でたいした支障はないと思っている。
そんないいかげんな私だから、
登場人物の相関図を作りたい!などと思ったことがあろうはずもない。
源氏物語を読みふけっていたときは、相関図の必要を感じたが
これはそれ、ちまたに沢山の関係図が溢れていたから
わざわざ自分で作らなくても参照すればいいと割り切った。
だから本を読みながら、相関図を作りたいと思ったのは
もしかするとこれが初めてかもしれない。
とはいえ、複雑な話だというわけではないのだ。
ただ、登場人物と登場する犬が多く、それぞれが少しずつ、
なんらかの形で関わりがあるというだけで。
いくつものエピソードがゆるやかに関わり合っていているというだけで。
物語の舞台はポルトガルのガルヴェイアスという小さな村だ。
1984年1月のある夜、この村を猛烈な爆音が襲う。
村人たちを恐怖に陥れたこの爆発音は、
村のはずれの原っぱに墜ちて巨大な穴をつくった物体によるものだったことが判明する。
「名のない物」と呼ばれるようになるこの物体がいったいなんなのか、
どこからきたのか、どんな形状のものなのか
どんなにページをめくっても明らかにされることがない。
ただ、あれが降ってきて以来、なにかが変わってしまったのだ。
パンの味も、いろんなものの臭いも、人々の中にあるなにかさえも。
そしてそのことを一番敏感にかぎとっていたのは犬たちだった。
物語の中で経過する時間は、
「名のない物」の出現からの約10ヶ月ほどの間にすぎない。
けれどもその10ヶ月の間に
あの人にもこの人にもあの犬にもいろいろなことがある。
ある老人は50年前に仲違いした兄を殺す決意をするし、
ある女性は夫の浮気相手に強烈な“爆弾”を投げつける。
新しく赴任してきた教師は嫌がらせをうけ
貧しい少女は訳もわからぬうちにレイプされ
犬が毒入りのエサを食べて死ぬ。
事故は起こるし、濡れ衣は着せられるし……
どうしようもない人々が次々登場し
次から次へと不幸は後を絶たない。
そしてまたもちろん
なんらかの「事件」が起きるまでには様々な積み重なりがあるものなのだ。
村人たちそれぞれの人生の一コマを覗き込みながら
その事件はあのエピソードから繋がっていたのか!
これはあの伏線だったのか!
などと本人たちの知らないところで驚いてみたりする。
ガルヴェイアスは
広大な宇宙の中ではもちろん
ヨーロッパの中でも
ポルトガル国内においてでさえ、
小さな、小さな村だ。
けれどももちろん
そこには人々の営みがあり
村人一人一人の人生がある。
一見何の関わりもないような小さな出来事の積み重ねが
一つの事件へと繋がっていくように
一読して強い衝撃を受けるというよりも、
行きつ戻りつしながら
何度か読み直しているうちにじわじわと面白さがにじみ出てくる
そんな1冊。
私がこの物語に出会ったことも
どこかで誰かのなにかに繋がって行くに違いない
そんな風に思える1冊。
登場人物の名前が覚えられないということを挙げる人がいるけれど
一度に何冊かの翻訳小説を並行して読み散らかしている私は
そのいい加減な性格のせいでもあるのだが、
元々、登場人物の名前を積極的に覚えようという気が無い。
物語の終盤になって、
あらこの人のこの名前、本人の役どころを象徴していたのか!などと
気づいて驚いたりすることもあるけれど
たいていの場合、登場人物の正確な名前を把握していなくても
物語を読み進める上でたいした支障はないと思っている。
そんないいかげんな私だから、
登場人物の相関図を作りたい!などと思ったことがあろうはずもない。
源氏物語を読みふけっていたときは、相関図の必要を感じたが
これはそれ、ちまたに沢山の関係図が溢れていたから
わざわざ自分で作らなくても参照すればいいと割り切った。
だから本を読みながら、相関図を作りたいと思ったのは
もしかするとこれが初めてかもしれない。
とはいえ、複雑な話だというわけではないのだ。
ただ、登場人物と登場する犬が多く、それぞれが少しずつ、
なんらかの形で関わりがあるというだけで。
いくつものエピソードがゆるやかに関わり合っていているというだけで。
物語の舞台はポルトガルのガルヴェイアスという小さな村だ。
1984年1月のある夜、この村を猛烈な爆音が襲う。
村人たちを恐怖に陥れたこの爆発音は、
村のはずれの原っぱに墜ちて巨大な穴をつくった物体によるものだったことが判明する。
「名のない物」と呼ばれるようになるこの物体がいったいなんなのか、
どこからきたのか、どんな形状のものなのか
どんなにページをめくっても明らかにされることがない。
ただ、あれが降ってきて以来、なにかが変わってしまったのだ。
パンの味も、いろんなものの臭いも、人々の中にあるなにかさえも。
そしてそのことを一番敏感にかぎとっていたのは犬たちだった。
物語の中で経過する時間は、
「名のない物」の出現からの約10ヶ月ほどの間にすぎない。
けれどもその10ヶ月の間に
あの人にもこの人にもあの犬にもいろいろなことがある。
ある老人は50年前に仲違いした兄を殺す決意をするし、
ある女性は夫の浮気相手に強烈な“爆弾”を投げつける。
新しく赴任してきた教師は嫌がらせをうけ
貧しい少女は訳もわからぬうちにレイプされ
犬が毒入りのエサを食べて死ぬ。
事故は起こるし、濡れ衣は着せられるし……
どうしようもない人々が次々登場し
次から次へと不幸は後を絶たない。
そしてまたもちろん
なんらかの「事件」が起きるまでには様々な積み重なりがあるものなのだ。
村人たちそれぞれの人生の一コマを覗き込みながら
その事件はあのエピソードから繋がっていたのか!
これはあの伏線だったのか!
などと本人たちの知らないところで驚いてみたりする。
ガルヴェイアスは
広大な宇宙の中ではもちろん
ヨーロッパの中でも
ポルトガル国内においてでさえ、
小さな、小さな村だ。
けれどももちろん
そこには人々の営みがあり
村人一人一人の人生がある。
一見何の関わりもないような小さな出来事の積み重ねが
一つの事件へと繋がっていくように
一読して強い衝撃を受けるというよりも、
行きつ戻りつしながら
何度か読み直しているうちにじわじわと面白さがにじみ出てくる
そんな1冊。
私がこの物語に出会ったことも
どこかで誰かのなにかに繋がって行くに違いない
そんな風に思える1冊。
お気に入り度:









掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
- かもめ通信2018-08-30 06:24
掲示板企画「祝 #新潮クレスト・ブックス #創刊20周年」もいよいよ明日が最終日!
http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no331/index.html?latest=20
「この本、よかったよ」「こんな本もあったよね」
「○×さんのこの書評、印象に残っている」「この本が気になる」等々、
クレスト・ブックスに関わる話題ならどんなものでもOK 。
レビューがなくても参加できるので、皆様ぜひ遊びに来てください。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:新潮社
- ページ数:286
- ISBN:9784105901493
- 発売日:2018年07月31日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。