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ぽんきち
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「腹が減っては戦はできぬ」はずなのに
なかなか強烈なタイトルだが、内容はまさにこの通りである。
アジア太平洋戦争において、戦没した日本兵の多くが、「名誉の戦死」ではなく、餓死や栄養失調による病死で命を落としていたという。
大量の兵を投入した挙句に餓島と呼ばれたガダルカナル島の戦い、無謀な陸路進攻を強行したポートモレスビー攻略戦、20世紀の鵯越を目したインパール作戦。太平洋の孤島群の置き去り部隊。フィリピン戦。中国戦線。
多くの犠牲を出したこれらの侵攻は、勝算が薄いにも関わらず敢行され、奇跡を起こすこともなく失敗した。そして多くの兵は、戦闘そのものというよりも餓えや病に斃れた。
いったい何が起きていたのか。なぜ防げなかったのか。
本書では多くの一次資料にあたりながら、その背景を探る。

第一章は、個々の戦地を取り上げながら、餓死の実態を追う。
第二章では大量餓死を招いた背景を、第三章ではこうした事態を招いた日本軍隊の特質を歴史に絡めて解説していく。

1つの重大な要因として、兵站の軽視がある。「腹が減っては戦はできぬ」とは言うが、まったくもってこの点が考慮されていなかったのだ。兵をどんどんと送り込むが、食料は現地調達せよ、という始末。中には作物の種子を持たされた部隊もあるが、気候条件も違う地で、まして戦闘も行いながら、呑気に栽培などしていられるはずもない。
民間から徴発された馬も多く戦地に運ばれたが、熱帯雨林やサンゴ礁の島では馬は適応できぬまま死んでいく。人間の食糧も十分でない戦地で馬の飼料は真っ先に削られ、馬が食料になってしまう場合さえあった。
武器も十分ではなく、米兵の圧倒的な火力に対して、歩兵の持つ軽火器や銃剣で立ち向かうしかなかった。この背景には武器よりも兵を重視する方針がある。武器に金を掛けるよりも歩兵を増やし、武器はむしろ兵の「補助」的なものと考えるのだ。
制空権も制海権も奪われた状態では、兵を送り込んだとしても大量の兵器や食料は送れない。

そして行きつくところは「精神論」になる。
物資がない。武器もない。兵は送り込まれる。
外から見ればうまくいくはずはないのだが、「大義」の元では、たとえおかしいと思っても反論すら許されない。
かくして多くの兵が餓えに斃れた。

著者自身、陸軍士官学校卒業後、中国各地を転戦したという。復員後、史学の研究者となり、日本近現代史を専攻する。
筆は終始、歯切れよく、悲惨な現実を淡々と冷静に分析していく。
個々の論については反論もあろうが、ともかくも各章に付された膨大な一次資料の数に圧倒される。
客観的に歴史を見つめようとする視線の背後に、著者の痛みと憤りが見え隠れする。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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この書評へのコメント

  1. oldman2020-10-13 10:50

    戦時中の兵隊の戯れ歌に「輜重輸卒が兵隊ならば、蝶々トンボも鳥のうち、電信柱に花が咲く」というものがあります。
    これは、旧軍が兵站をいかに軽く見ていたかが良く解るものです。

    塩野七生さんは「ローマ人の物語」の中で、古代ローマの強さの秘密は「兵站」にあったと書かれています。実際あの時代に先ず道路を作り、前線と補給基地とを結んだ古代ローマのやり方には、驚嘆すべきものがありますね。

    「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」というような標語を作っているような国の軍隊では、結局相手が最前線の基地でアイスクリームを食べている時に、「泥水啜り、草を食み」になってしまうわけで、結果は名に見えてしまうわけですね。
    この本は面白そうなので読んでみたいと思います。

  2. ぽんきち2020-10-13 15:44

    oldmanさん

    コメントありがとうございます。

    火力に頼ら(れ)なかったのは、技術力の不足も原因としてあるようですが、そこを精神論で押し切られたら兵士はたまったものではないですよね。

    後半は兵站軽視に至った歴史的経緯の分析などもあるのですが、背景には派閥争いや特定のルート出身者のエリート意識などもあったようで、ちょっと暗澹たる気分になります。

    読まれるようでしたら書評楽しみにしていますね。

  3. No Image

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