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かもめ通信
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例によって例のごとくなかなか登場しない名探偵だが、出てきたからにはきっちり働く。
時は1940年1月。第二次世界大戦のさなかのことだ。
ニューヨークからイギリスのとある港へ向かう船の上で事件は起こった。

本来は客船のはずのエドワーディック号だが、このときの乗船客はたった9人だった。
なにを隠そうこのとき船は、“イギリスの某港”への軍需品の輸送を担っていて、代価50万ポンド相当の高性能爆薬の他にロッキード社製の爆撃機4機を積んでいたのだ。

イタリアやアメリカの定期船でジェノバやリスボンを経由する南欧航路をとれば、多少の時間はかかっても遙かに安全な船旅ができるはず。
にも関わらず、灯火管制下がしかれ常に救命胴衣を携帯することを義務づけられた、いつ敵の攻撃に晒されるかもしれないダイナマイト同然の船を選んで8日間で大西洋を横断しようとする客には、急いでイギリスに渡りたい差し迫った事情、あるいは他になんらかの理由があるはずだった。

そんな中、乗客の一人が自室で喉を掻き切られて殺害される。
現場には血塗られた指紋が残されていたが、不思議なことにその指紋は、乗客、乗務員いずれのものとも指紋と合致しなかった。
はたして船には10人目の招かれざる客が存在するのだろうか。

この不可解な謎を解明するため、エドワーディック号に乗り合わせたヘンリー・メリヴェール卿が百キロほどもあるという体重の文字通り重い腰をあげることになったのだった。

巨漢で大きな禿頭、小さな鋭い目にたびたび眼鏡がずり落ちる低い鼻、苦虫を噛みつぶしたような口元、口の悪さは折り紙つき……という好人物とは言いがたいアクの強い名探偵、ヘンリ・メリヴェール卿(H・M)を主役とするシリーズの1作。

300ページ未満とすっきりまとまったミステリであると同時に、登場人物が皆個性的なので、翻訳物は名前を覚えるのがどうも……という方には、あえて正確な名前など覚えずに読み進めるのもいいかもしれない。
だいたいかの名探偵だって、年中頭文字で登場することだしね!

事件のトリックもさることながら、いつなんどき敵の潜水艦から攻撃を受け、船もろとも爆破されるかもしれないという戦争という大きな脅威にさらされながらも、目の前の殺人事件の恐怖におびえる人々の心理状態もまた読み応えのあるところ。

そしてまた、さりげなく書き添えられている、登場人物のひとりが歌う歌の選曲など、ところどころに著者の洒落っ気が垣間見られるのもうれしい1冊だ。

<関連レビュー>
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2229 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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