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darklyさん
darkly
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カリブ海の青は悲しみの色なのか。
ハイチはもちろん、カリブの文学を読むのは初めてです。ハイチというと植民地から独立した国ということと、ヴードゥ教とゾンビ、これが私の知識のすべてでした。
本書はハイチの人々の民話、それも悲しい話が多い民話集です。

ハイチにいても軍事独裁政権が傍若無人に振る舞う地獄、命をかけてボートで難民として漕ぎ出せば海の藻屑と消え失せる。愛し合うハイチに残る娘とボートの青年、青年の最後の独白
「もうすぐぼくも行くことになるだろう。それがぼくの宿命なのかもしれない。この青く深い海の底には、奴隷の鎖から解き放たれ血塗られた地上から逃れた子どもたちが安らかに眠っているのだ」


アフリカから奴隷として連れてこられた先祖たち、植民地支配を経て、独立しても彼らの安住の地は海の底とはなんと悲しいことだろう。カリブ海の青は悲しみの青なのか。

偽装結婚を利用しアメリカに行くことに成功した家族もいる。ハイチ人としてのアイデンティティを守ろうとする母親、アメリカ人として生まれ手に障害を持っているがバハマ人と結婚しようとしているキャロライン、そしてアメリカに帰化できアメリカ人となれたキャロラインの姉、それぞれが複雑な思いでキャロラインの結婚式を迎える。

民族としての誇り、その裏にある他民族への差別感、アメリカナイズされることへの抵抗やアメリカや自由への憧れ、家族への思い、様々な感情を抱きながら彼女たちは生きている。でも彼女たちは自分たちがハイチ人であることを忘れない。

この短編集は17年前に出版されたものを再版したものです。それはこの作者の知名度のアップも一つの理由でしょうが、私は今日の世界の状況も大きな理由ではないかと推測します。

植民地からの独立後の独裁政権はカリブだけでなくアフリカなどでもよく見られ、その後の内乱、民主化による混乱、民族・宗教対立などは引きもきりません。そしてアフリカ・中東での難民、地中海での難破、上陸後の国の受け入れ拒否、受け入れ先の国での差別や貧困。

この物語の登場人物が味わった悲哀がまさに今この世界で繰り広げられているという悲しい現実の中で本書は再びその意義を見出されたのかもしれません。

心の残る短編集でした。献本ありがとうございました。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. ランピアン2018-11-03 18:20

    ハイチ革命は、キューバの文豪カルペンティエルの『この世の王国』で描かれたりもしていますが、ブードゥーが革命の発火点になったとされている点など興味深く、私もいつか勉強してみたいと思っています。

    その際には、本書のような文学もぜひ参考にしたいと考えています。ご紹介ありがとうございます。

  2. darkly2018-11-03 21:33

    コメントありがとうございます。ハイチ革命とブードゥー教がつながりがあるという見方があるのですか。カルペンティエルも初めて聞きました。教えていただきありがとうございます。

  3. ランピアン2018-11-04 16:40

    いえいえ、こちらこそ。

  4. No Image

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