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Kuraraさん
Kurara
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悲しい過去の話は、語り継がれることによってやがてしなやかな枝になって大きく広がって行く
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「聞きたい?」「聞かせて!」という意味を持つ軽快で弾むような響きのあるこの言葉。
子どもが母親にお話を聞かせて欲しい時に使う気楽なイメージをもっていた。

そんな軽い気持ちでハイチ女性たちの<伝承>を聞こう!とページをめくったわけだが、軽快な掛け声からは想像もつかないほど、内容は深い悲しみや痛みを伴うものが多かった。

9話の短編集です。

なかでも生まれて来たばかりの赤ん坊の場面が印象が残っている。

第一話「海に眠る子どもたち」は、頼りない難民ボートの上で国に残った恋人への語り掛けを綴ったもの。

刻一刻とボートの状態が悪化して行くなか、妊婦の出産が重なる。どうにか無事に生まれて欲しいと手に汗握りながら文字を追う。

決して届くことのない恋人へ書き綴った言葉も、生まれ来る赤ん坊も、全てが海に吸い込まれていくような儚い話に気持ちの持って行き場を失う。

「ローズ」という話にも赤ん坊が登場する。
ある女中が赤ん坊を拾って来て大切にしている。
けれどもその赤ん坊はすでに死んでいるのだ。

ここでは赤ん坊を平気で捨ててしまうことは日常茶飯事であることが窺える。
階段の踊り場や、ごみ箱のなか、井戸のなか、歩道などいたるところに赤ん坊は捨てられているのだ。

日常であるがゆえ、なんの誇張もなく普通の風景として描かれている。
だから余計に寒々とした気持ちになる。言葉を失う。

一つの話を聴き終えるごとに自分の顔がこわばって行くのが分かる。
そしてこの国の苦難がヒリヒリと伝わって来てはハッとさせらるのです。

息苦しい話が続いていたけれど、やっと一息つけたのが「キャロラインの結婚式」
ひとつの家族が迎える新生活。帰化・結婚などを控えた母と娘の会話から見えてくるものは・・・・。

各々の思いが錯綜するものの最終的には安心して眠れる家、母親の食べ馴れた料理。そこから見えてくる「普通の幸せ」がどれほど尊いものであるかと言うことを感じさせられる。

悲しい過去の話は語り継がれることによって、やがてしなやかな枝になって大きく広がって行くような力強さを感じました。

エドウィージ・ダンティカを初めて読みましたが、たった数ページであっという間に読者を惹き付ける力のある作家だと誰もが感じると思います。また一人、好きな作家が増えたのが嬉しいです。

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Kurara
Kurara さん本が好き!1級(書評数:811 件)

ジャンルを問わず、年間200冊を目標に読書をしています。
「たしかあの人が、あんなことを言っていたな…」というような、うっすら記憶に残る書評を書いていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2018-08-31 05:31

    私もKuraraさんがエドウィージ・ダンティカファンになったと知ってすごくうれしい!!

  2. Kurara2018-08-31 22:01

    かもめ通信さん♪
    もう瞬時にファンになったと言っても過言ではないほど一気に惹きこまれました!
    献本様様です<(_ _)>

  3. かもめ通信2018-09-01 07:06

    それではぜひぜひ、Kuraraさんも
    ダンティカをゆっくり追いかける会にご参加くださいw

  4. Kurara2018-09-01 09:05

    拝見してきました!!
    教えてくださりありがとうございます~☆ 

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