darklyさん
レビュアー:
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小粒だが一粒で二度美味しいなかなか楽しめるホラー短編集。ホラー好きなら読んでも損はない。

初めて読む作家です。内容もホラーということですら知りませんでした。芦沢さん自身が小説上の作家となりこの短編集ができるまでの過程をドキュメンタリー風にした連作短編集です。
【染み】
角田(女性)は恋人の銀行員と共に結婚の相談をするためある占い師の元を訪れる。結婚しない方が良いと言われた彼は逆上し、彼の本当の人格を知った角田は別れようとするが「別れたら死ぬ」系の男で困っていたところ、ある日男は事故死する。そして広告代理店に努める角田の担当した広告に謎の染みが。そして角田も。
【お祓いを頼む女】
ライターの君子の元に平田という女性が訪ねてくる。以前オカルト系の記事を書いたのを読んだ平田は狛犬に祟られているのでお祓いする人を紹介してほしいという。迷惑な話であるが適当にあしらっていると。
【妄言】
念願のマイホームを手に入れた塩谷崇史は新居に満足していた。親切な隣人と思われた寿子が妻に崇史が浮気している現場を目撃したと告げ口する。寿子と険悪な仲になる中、寿子は崇史が殺人を犯したと言いだす。
【助けてって言ったのに】
智世は夫和典の実家で義母の静子と同居しはじめてから恐ろしい夢を見るようになる。家の火事でじわじわと焼け死ぬ夢なのだが苦痛のリアルさが容赦ない。実は同じ夢を静子も見ていて、夢から醒めた後、高熱で生死の境を彷徨ったことがあった。
【誰かの怪異】
岩永幹男は大学生活を始めるにあたり安くて良いアパートを見つけることができた。隣の栗田さんは子供を亡くし一人暮らししている中年の女性で幹男にも親切であり環境に満足していた。が怪異に見舞われる。友人の友人で岸根という自称霊能力者がお札を貼り、盛り塩をするのだが。
【禁忌】
この5話をまとめ、単行本にする過程でこれら5話すべてに絡んでいるオカルトライターの榊さんから妙なことを言われる。気になって考えるうちに、全く関係がないと思われたこれらの話には共通点が。そして榊さんとは連絡が取れなくなる。
本書の特徴は三つあります。一つ目は物語がドキュメンタリー風に入れ子構造となっていることです。「怪異が起こる」次元、「それを語る人と小説の中の作者がいる」次元、「この短編集を書いている作者がいる」次元、そして「それを読む我々という」次元。キーになるのは榊というオカルトライター。この人物は「それを語る人と小説の中の作者がいる」次元の存在であったにも関わらず、最終話【禁忌】において作者が榊さんに未だに連絡が取れないということにより「この短編集を書いている作者がいる」次元に染み出してきます。これにより「それを読む我々という」次元にいて安心してホラー小説を楽しんでいる我々もひょっとして安全ではないのではないかとの不安に襲われます。
ドキュメンタリー風とすることで効果的な恐怖を生み出した傑作「残穢」はしかし、我々には影響が及ばないところでの話という安心感がありましたが、本書を読んだら何かあるのではないかと思わせる設定はむしろ「リング」の「感染」に近いものを思わせます。エピソードの中には明らかに「リング」の影響を思わせるものもあります。
二つ目は、心霊系のホラーの場合、大雑把に言って退治あるいは除霊のようなはっきりとした結末があるものと、はっきりとした結末はなく不気味さや後味の悪さなどの余韻を重視するものがあろうかと思いますが、どちらにしても話の焦点や関心は起こる怪異やその正体にあります。しかしこの短編集のエピソードにはそのどちらにも該当しない結末となる話が複数あります。しかもミステリの要素を含んでおり私はあまり読んだことのないタイプの話でした。
三つめは、【禁忌】で書いてある通り、それぞれ独立したエピソードながらも、共通のキーとなる人物が絡んでいる可能性が示唆され、何か超自然の力により【禁忌】以外の5つの話は引き付けられるように作者の元に集まってきたのではないかと思わせます。このような重層性がそれぞれのエピソードの読後感を新たなものにさせるというなかなか手の込んだ構成となっています。いわばそれぞれのエピソードが一粒で二度美味しいお得な話となっています。
ここからは私の邪推ですが、この短編集の中で【染み】だけは怪異が物理的なものです。一番怖い話ではあるのですがフィクションというのが明らかです。この話を単発で発表した後に、連作短編集にしてすべてを統一するというアイデアを作者は得たのではないでしょうか。
恐怖の度合いという観点だけで見ると本書はそれほどではないかもしれません。しかし、ホラー短編集としてはとても楽しめると思います。
【染み】
角田(女性)は恋人の銀行員と共に結婚の相談をするためある占い師の元を訪れる。結婚しない方が良いと言われた彼は逆上し、彼の本当の人格を知った角田は別れようとするが「別れたら死ぬ」系の男で困っていたところ、ある日男は事故死する。そして広告代理店に努める角田の担当した広告に謎の染みが。そして角田も。
【お祓いを頼む女】
ライターの君子の元に平田という女性が訪ねてくる。以前オカルト系の記事を書いたのを読んだ平田は狛犬に祟られているのでお祓いする人を紹介してほしいという。迷惑な話であるが適当にあしらっていると。
【妄言】
念願のマイホームを手に入れた塩谷崇史は新居に満足していた。親切な隣人と思われた寿子が妻に崇史が浮気している現場を目撃したと告げ口する。寿子と険悪な仲になる中、寿子は崇史が殺人を犯したと言いだす。
【助けてって言ったのに】
智世は夫和典の実家で義母の静子と同居しはじめてから恐ろしい夢を見るようになる。家の火事でじわじわと焼け死ぬ夢なのだが苦痛のリアルさが容赦ない。実は同じ夢を静子も見ていて、夢から醒めた後、高熱で生死の境を彷徨ったことがあった。
【誰かの怪異】
岩永幹男は大学生活を始めるにあたり安くて良いアパートを見つけることができた。隣の栗田さんは子供を亡くし一人暮らししている中年の女性で幹男にも親切であり環境に満足していた。が怪異に見舞われる。友人の友人で岸根という自称霊能力者がお札を貼り、盛り塩をするのだが。
【禁忌】
この5話をまとめ、単行本にする過程でこれら5話すべてに絡んでいるオカルトライターの榊さんから妙なことを言われる。気になって考えるうちに、全く関係がないと思われたこれらの話には共通点が。そして榊さんとは連絡が取れなくなる。
本書の特徴は三つあります。一つ目は物語がドキュメンタリー風に入れ子構造となっていることです。「怪異が起こる」次元、「それを語る人と小説の中の作者がいる」次元、「この短編集を書いている作者がいる」次元、そして「それを読む我々という」次元。キーになるのは榊というオカルトライター。この人物は「それを語る人と小説の中の作者がいる」次元の存在であったにも関わらず、最終話【禁忌】において作者が榊さんに未だに連絡が取れないということにより「この短編集を書いている作者がいる」次元に染み出してきます。これにより「それを読む我々という」次元にいて安心してホラー小説を楽しんでいる我々もひょっとして安全ではないのではないかとの不安に襲われます。
ドキュメンタリー風とすることで効果的な恐怖を生み出した傑作「残穢」はしかし、我々には影響が及ばないところでの話という安心感がありましたが、本書を読んだら何かあるのではないかと思わせる設定はむしろ「リング」の「感染」に近いものを思わせます。エピソードの中には明らかに「リング」の影響を思わせるものもあります。
二つ目は、心霊系のホラーの場合、大雑把に言って退治あるいは除霊のようなはっきりとした結末があるものと、はっきりとした結末はなく不気味さや後味の悪さなどの余韻を重視するものがあろうかと思いますが、どちらにしても話の焦点や関心は起こる怪異やその正体にあります。しかしこの短編集のエピソードにはそのどちらにも該当しない結末となる話が複数あります。しかもミステリの要素を含んでおり私はあまり読んだことのないタイプの話でした。
三つめは、【禁忌】で書いてある通り、それぞれ独立したエピソードながらも、共通のキーとなる人物が絡んでいる可能性が示唆され、何か超自然の力により【禁忌】以外の5つの話は引き付けられるように作者の元に集まってきたのではないかと思わせます。このような重層性がそれぞれのエピソードの読後感を新たなものにさせるというなかなか手の込んだ構成となっています。いわばそれぞれのエピソードが一粒で二度美味しいお得な話となっています。
ここからは私の邪推ですが、この短編集の中で【染み】だけは怪異が物理的なものです。一番怖い話ではあるのですがフィクションというのが明らかです。この話を単発で発表した後に、連作短編集にしてすべてを統一するというアイデアを作者は得たのではないでしょうか。
恐怖の度合いという観点だけで見ると本書はそれほどではないかもしれません。しかし、ホラー短編集としてはとても楽しめると思います。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:221
- ISBN:9784103500827
- 発売日:2018年06月22日
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