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darklyさん
darkly
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沖縄は宝島である。宝とは何なのか?沖縄の歴史や人々の物語を幹にしながらも、社会派、ミステリ、ノワール、スリラーなどの要素もある重層的で重みのある物語。残り数十ページは涙なくして読めません。
舞台は戦後、アメリカ統治時代の沖縄、抜群の判断力、胆力、リーダーシップを持ち地元で人望を集めるオンちゃんは戦果アギヤー(戦果をあげる者)だ。つまりアメリカ軍から物資を略奪している。そしてそれを地元の人々に分け与えている。

オンちゃんは腕自慢の戦果アギヤーを集めて嘉手納基地を襲撃する。しかしアメリカの知るところとなりオンちゃんの親友グスク、弟のレイは這々の体で逃げ出すが、オンちゃんは行方不明となる。

リーダーを失い失意のグスク、レイ、そして恋人のヤマコたちは、傍若無人なアメリカ兵による数々の事件・事故の中でそれぞれの道を歩んでいく。ヤマコは小学校の教諭となるが、明らかにアメリカ人とのハーフで言葉も喋れない孤児ウタと知り合う。

アメリカ軍に対する沖縄の人々の抵抗を抑えようと暗躍するアメリカ人や協力する日本人、沖縄のヤクザ同士の抗争など沖縄返還前夜の混乱の中、オンちゃんの消息も明らかになる。オンちゃんが嘉手納基地を襲撃した時に手に入れたとされる「予定にない戦果」とはなにか?そして沖縄人(ウチナンチュ)の宝とは?

オンちゃんの生き様、愛に満ちた英雄の魂は永遠に生き続け沖縄人に引き継がれる、それが沖縄人の矜持であることが表の主題とするならばウタの人生は裏の主題なのでしょう。親も知らず言葉も知らず三歳から浮浪児として食物を盗んで生き延びヤマコの問いかけにも笑顔を見せるだけ。ウタは実在の人物ではありません。しかしこのような子供が沢山いたことは事実なのだろうと思います。生きる意味を考える間もなく短い生涯を終える子供たちが。ウタは手紙で言葉を残します。
おいらはどこから来て、どこに行くんだろう。
ウタは過酷な運命と歴史を背負わされ現在でもアイデンティティが揺れ続ける沖縄の人々の思いを体現した存在なのでしょう。

そしてこの物語、いや現在の沖縄においても一筋縄ではいかないのが、沖縄人にとっての敵はアメリカであると同時に本土の我々でもある(そう思っている人たちがいる)というところです。通常私たちは物語の主人公に感情移入をし、敵を憎み、主人公が敵を倒せば拍手喝采する。この物語ではそう簡単にはいきません。

沖縄の人々の苦しみが理解できないわけではなくても南シナ海や尖閣をはじめとして中国の海洋進出など地政学的リスクを考えれば米軍撤退はあり得ない。軽々しく「最低でも県外へ」などと無責任なことを言う偉い方もいましたが本土への移転が簡単にできないことは素人でも分かります。

物語の構成についても一言述べますと、沖縄の歴史や人々の物語を幹にしながらも、社会派、ミステリ、ノワール、スリラーなどの要素もあり重層的で重みのある物語となっており直木賞を取るのも頷けます。

この物語を読み始めた時、沖縄の方言が分かりにくく読みにくいなと感じたのも束の間、何か文章に独特のリズムがあって、まるで沖縄民謡にでも乗って読んでいるような気になってきます。また怖いはずのヤクザの脅し文句も方言で言われると何かのんびりした感じがします。

作者の真藤さんはてっきり沖縄の方かと思いきや東京出身なのですね。昔「島唄」を歌っていたTHE BOOMが山梨県出身の人たちと聞いて驚いたのと同じ驚きでした。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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