かもめ通信さん
レビュアー:
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戦後70年以上がたち、子どもたちはもちろんその親の世代でさえも、実際に戦争を体験した世代の話に直接耳を傾ける機会はなかなかないのではなかろうか。だからこそ、そして今だからこそ、お薦めしたい1冊だ。
読み始めたばかりの本から顔をあげて、私はたまたまそばにいた両親に訊ねた。
「昭和16年、幾つだった?」
作家生活25周年を迎えたという著者が、実のお母さんをモデルに書き上げたという物語は、昭和16年、国民学校の3年生だった笑生子(えいこ)が2歳年下の弟の春男とともに、一匹の子犬を飼い始めるシーンから始まる。
物語の主人公笑生子は、6人きょうだいの4番目。
出征した婚約者の母親の世話を焼きながら宇治で暮らす長姉澄恵美、結婚して吹田で所帯を持っている長兄正義とは別々に暮らしているが、やさしい両親と仕事であちこち飛び回ってなかなか家に帰ってこないが家族想いの次兄成年、市電の車掌をしている次姉雅子、笑生子と春男と犬のキラとともに幸せな日々を送っていた。
けれどもやがて、そんな笑生子の生活にも戦争が暗い影を落とすようになっていく。
滑り出しには少しぎこちなく感じるくらい説明が多く、教科書調の堅苦しい印象をうけるが、家族構成や生活様式も、平成生まれの子どもたちには、こうした説明がなければなかなか理解できないものなのかもしれない。
戦争は次第にはげしくなり、大好きな次兄成年が出征、その兄が手伝っていた動物園も閉鎖される。
“犬の肉を兵隊さんに食べてもろて、はいだ皮を戦争に行っている兵隊さんのお役に立てましょう”と「犬の献納運動」まで提唱され、愛犬キラにも危険が迫る。
皮肉なことに、笑生子の暮らしが苦しくなればなるほど、戦争がもたらすあれこれが悲惨さを増せば増すほど、物語も勢いを増し読みやすくなっていく。
けれどもそれは、登場人物たちに感情移入するようになり、一緒になって泣き笑いしてしまうという意味であって、その内容の悲惨さは決してさらっと読みながせるようなものではなかった。
やがて笑生子は長兄の家へ縁故疎開し、春男は集団疎開へ、家族はばらばらになる。
そして大阪大空襲が……。
戦争は笑生子から次々とかけがえのないものを奪っていくのだった。
「仙台に空襲のあったとき、お父さん、おばあちゃんやおじさんとはぐれてしまったんだよね。」
既に何度か聞いている話ではあるが、再び父に語ってもらうおう。
いつしか私は、笑生子の物語に、自分の両親の姿を重ねて読んでいた。
戦争の記憶、平和の大切さと、口で言うのはたやすいが語り継ぐことは非常に難しい。
ふんだんに添えられた、温かみのあるやわらかなタッチで描かれる牧野千穂さんの挿絵はとても魅力的だし、物語自体も読み応えがあるが、つらく厳しい内容でもある。
それでも、いやそれだからこそこの本には、著者自身があとがきで語るように、「おとなだけが読む本」でも「子どもだけが読む本」でもなく、「おとなと子どもが一緒に読んで」語り合ってって欲しいという思いが込められているのだ。
戦後70年以上がたち、今の子どもたちはもう、実際に戦争を体験した世代の話に直接耳を傾ける機会はなかなかないのではなかろうか。
その親の世代でさえも、知らないことも多いだろう。
だからこそ、こうした本を読んで親子で語り合うことが、いっそう必要になってきているのではなかろうか。
本を閉じた後、私はまた両親の昔語りに耳を傾ける。
両親の子ども時代と、物語の中の笑生子と、今なお遠い異国の地で戦火におびえる子どもたちと、数年先、数十年先の未来に生きるであろう子どもたちのことを想いながら。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- ページ数:358
- ISBN:9784591159088
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