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darklyさん
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筒井康隆さんが扮する文学部唯野教授がハイデカーの思想についての講義(講演)を書籍にしたものです。
ハイデカーの「存在と時間」は当然読んだこともなく興味はあっても挫折するのは目に見えているのでなかなか手に取るまでには至りません。本書を手に取ったのはもちろん筒井さんの名前があったからです。

結論的には大変面白く読んで良かったと思いました。筒井さんの講義部分も分かりやすいのですが、それを補う形で大澤真幸さんが【「誰にでもわかるハイデガー」への、わかる人にだけわかる補遺】という章を書いており併せて読むと話がさらに立体的となり興味深いです。

大澤真幸さんは社会学者であり所謂哲学者でもハイデカー研究者でもないのかもしれませんが、橋爪大三郎さんとの共著である「ふしぎなキリスト教」を執筆された方で、ハイデカーの思想をキリスト教の視点からアプローチすることで筒井さんの講義を補完しております。これがなかなか目からウロコというかもちろん私レベルでは表面的な理解なのでしょうが面白い。

さわりだけ紹介いたしますと

人間が無限に生きるのだとしたら倫理性は宿らない。なぜならどのような選択でもやり直せるからだ。人間が有限の存在だからこそ倫理性が宿る。それはいつ死ぬのか分からない存在の場合、今何をすべきか、何を選択すべきか、どのような考えを優先すべきかと考えざるを得ないからである。つまり倫理が問われる。

それに対し神は無限の存在である。ところがキリスト教の独創的なところはイエスは神の子(つまり無限の存在)でありながら磔刑により死に至る(有限の存在)。つまり有限性と無限性との間のギャップが神自身に内在している。つまり神とは、神と人間との間の絶対的な差異そのものである。

このキリスト教の理解から「存在と時間」の時間についてや「死の了解」についての結論を導いています。もちろんそれは大澤さんの解釈であり、他の解釈もあるのでしょうが、これが正しければハイデカーもキリスト教の影響下にあるわけで、それがまた日本人にとって理解をさらに難しくしている要因かもしれません。また、この難解な「存在と時間」がドイツで出版されるや否やなぜ売れたのかを当時のドイツの置かれた状況等から考察しています。

それにしても筒井さんは勇気があります。筒井さん自身が述べていますが世の中には生涯をかけてハイデガーを研究する学者もいる中で、反論やあるいは中傷も想定できる、このような本を出すのですから。でも、それは筒井さんが言論や執筆を職業としているプロであるという覚悟がなせるわざでしょう。

これを読んだからと言ってもちろんハイデカーが分かったなどと言うつもりは毛頭ありませんが、ハイデカーを読むということではなく、哲学というもの触れるきっかけとしてはとても良い本であると思います。ページ数にして140P程度、字が大きく1ページ10行程度ですので気楽に手に取れると思います。

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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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