書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

darklyさん
darkly
レビュアー:
東電OLの心理に迫る怪作。しかし男から見た女性は永遠の謎。逆もまたしかり。
この作者の小説は初めてで、内容も全く知りませんでしたが、ジャケットのカラヴァッジョ「法悦のマグダラのマリア」や「うかれ女島」という題名で売春をテーマにしていることだけは分かりました。「うかれ女島」をネットで調べてみると三重県の渡鹿野島がそのモデルのようです。

伊勢田大和の母親は売春婦だった。母は「真理亜」と名乗り、うかれ女島で売春婦をした後、女衒となっていたが事故で亡くなった。母は4人の女性に自分が死んだことを知らせてほしいとメモを残した。

1人目の女性は鳥井忍。二年ほどうかれ女島にいたが東京に戻り売春もしながら、風俗嬢の子供を預かる託児所も経営している。純粋にこの職業が好きだという。

2人目の女性は樫谷貴子。風俗嬢やうかれ女島で働いていたが、現在は資産家の親を持ち、童貞で公務員のマザコンっぽい男と結婚し専業主婦。自分は勝ち組であり、この生活を死守しなければと思っている。大和からの手紙も過去をネタにした脅迫だという疑念を持つ。

3人目の女性は愛野麻矢。女優として主役級ではないがそこそこの活躍をし、作家の村沢の愛人だ。スランプの村沢の頼みでうかれ女島から帰ってきて女優となった麻矢をモデルとした小説が書くことを了承した。

4人目の女性は桐口瞳子。この女性自体がうかれ女島にいたわけではなく、先輩の春日まどかが島にいたことがあったのだ。春日まどかは一流企業の優秀社員であったが、安い金で売春を行い、首を絞められて殺されたのだ。そう東電OLがモデルである。

大和は忍と瞳子と島に行く。島での真相、忍と瞳子の心に去来するもの、そして島には来なかった貴子と麻矢が自分に起こる出来事の中で気づくことなどが綴られていく。

この物語は未だに謎である「東電OLはなぜ売春をしていたのか?」ということが主題であることは間違いありません。売春をする動機には色々あるでしょう。純粋に経済的な問題、手っ取り早く金を稼ぎたい、自分の商品価値を確かめられる、忍のように天職のように感じる女性もいるのかもしれませんが、東電OLの場合はどれも当たってそうにない。

またこのような問いもあります。売春婦と普通の女性はどれほど違うのか。自分では勝ち組だと思っていた貴子はある出来事をきっかけに気づきます。
私はこの男に買われた奴隷なのだ。今まで私を買った男たちには、肉体、いや、セックスだけしか売っていない。けれど私は夫という立場のこの男に、セックスだけでなく、全てを金で買われてしまったのだ。奴隷には自由などないのだと、この男の笑顔は言っている。
元売春婦で作家の愛人であることが世間に広まった麻矢は仕事もなくなり、世間からの猛バッシングに遭うが本人は何とも思っていません。それどころか世間の注目に自分の商品価値を見出します。それは売春において自分の商品価値を見出す心理と同じです。

そして、これらの考え方はすべて男性社会における女性の立場、経済的なものにしろ、受け入れる性という特性にしろ、に立ったものといえます。この物語の結末はその立場を根底から覆す考え方と言えます。それは東電OLの心理を考え続けた作者なりの結論と言えるかもしれません。また売春に生涯ずっと関わり一般的には不幸と考えられた真理亜の純粋さと世間的には普通に生きる女性の醜さや不純さのコントラストも見事です。
ミステリーの要素も散りばめながら、社会派とも言えるこの物語。この難しい問題に取り組もうとした作者の意気込みに敬意を表したいと思いました。



お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

読んで楽しい:4票
素晴らしい洞察:1票
参考になる:31票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『うかれ女島』のカテゴリ

登録されているカテゴリはありません。

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ