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ぽんきち
レビュアー:
THE NARROW ROAD TO THE DEEP NORTH。細く険しい道。それは地獄へと続くのか。
著者リチャード・フラナガンはオーストラリア・タスマニアに生まれ育つ。
12年の歳月を掛けて書かれた本作は、「捕虜番号サンビャクサンジュウゴ(335)に捧」げられている。すなわち、日本軍の捕虜となり、泰緬鉄道建設に従事させられた著者の父アーチー・フラナガンである。
アーチーは幸運なことに生還したが、「死の鉄路」とも呼ばれる泰緬鉄道の建設は困難を極め、多くの死者を出した。タイ(泰)からビルマ(緬甸)、全長415キロの軍用鉄道。元々、難工事である上に、雨季に苦しめられ、疫病が蔓延した。無理やりな突貫工事に駆り出された捕虜約1万3千人、アジア人労務者推定数万人が死に至ったという。

父親や、著者自身をも投影したようである主人公、ドリゴは、外科医である。
物語は彼の人生を行きつ戻りつ追っていく。
幼少時代の家族との思い出。
青年期に出会った鮮烈な恋。
捕虜生活の過酷な体験。
除隊後のいささか冷ややかな妻との暮らし。
彼の人生の奥底には、いつでも「詩」がある。
テニスンやダンテを愛し、捕虜時代に俳句を知る。

重厚な物語は詩情を謳い、短詩は背後に物語を秘める。
赤い花を挿したかの人とたどれる未来はなかったのか。
痩せさらばえ、下痢に苦しめられる同胞をどうすればよかったのか。
年老い、「ひとかどの人物」となったドリゴだが、心の平安は訪れない。
戦争は終わっても、人生は続く。

収容所時代をドリゴとともにした者たちの人生も物語は追う。
ある者は戦争犯罪者として裁かれて死に、ある者は生体解剖事件に関与したものと知己となる。ある者は恋い焦がれた妻に裏切られる。
生還できた者たちが、生還できなかった者の思い出の店へと向かう。そこでの店主とのやりとりがしみじみと温かく哀しい。

ドリゴの人生を大きく変えたのは、1通の手紙だった。彼は、その手紙の中の嘘に気付かなかった。
人生とはままならぬ皮肉なものだ。北へと向かう細道のその先に待ち受けるのは地獄であるのかもしれない。けれども人は進むのだ。一歩ずつ。はかない愛を抱えながら。

「露の世は露の世ながらさりながら(一茶)」

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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1821 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)、ひよこ(ニワトリ化しつつある)4匹を飼っています。


*能はまったくの素人なのですが、「対訳でたのしむ」シリーズ(檜書店)で主な演目について学習してきました。既刊分は終了したので、続巻が出たらまた読もうと思います。それとは別に、もう少し能関連の本も読んでみたいと思っています。

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