Yasuhiroさん
レビュアー:
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今読める山尾悠子の最後の作品。三冠達成とか大化けしたとか世評は高い。その通りではあるのだが、、、
  追いかけてきた山尾悠子の最新刊に辿り着きました。昨年発刊され、第69回芸術選奨文部科学大臣賞、第39回日本SF大賞、第46回泉鏡花文学賞の「三冠」を達成した「飛ぶ孔雀」です。大化けしたとか世評は高く、このサイトでもefさんはじめ、私が尊敬するレビュアー諸氏、6名がレビューを寄せられています。そのキャッチコピーに曰く
それでなくても読む気満々でしたが、これだけの好評価を見ると読まないではいられませんね(^^♪。
「I 飛ぶ孔雀」は「文學界」2013年八月号と2014年一月号に発表された作品、「II 不燃性について」は本書のために書き下ろした作品とのことです。二作は時間がずれているもののほぼ同じ場所を舞台としており、ゆるやかな連関を持っています。
第I部は六つの掌編を重ねて火が燃えにくくなった世界を提示した後、中編レベルの「飛ぶ孔雀、火を運ぶ女 I,II」で一気に華やかなクライマックスにもってくるという、山尾悠子にしては珍しい(というか初めてかもしれない)劇的な展開で驚かせます。
一方第II部は十四の掌編で一つの物語を形成する連作形式で起承転結をつけている「感じ」でした。
「感じとはどういう事?」と言われそうですが、とにかく摩訶不思議で曖昧模糊とした不条理な世界観、表現も韜晦だらけで一向に展開が読めない、そして「結」でちゃんと落ちが付いたのかどうかもよくわからない。
さすが山尾悠子。
冗談はさておき、一読してこの作品のストーリーをすんなり受け入れられる人はまずいないでしょう。
ただ、いくつかの彼女のポリシー、傾向のようなものを知っておけば若干は読み易いかと思います。そういう留意点をいくつか挙げておきましょう。
1:人名
・アルファベットの頭文字が多いのでしっかりと把握しておくこと。
・今回は女性の名前にカタカナ二文字が多く、かつおそらく故意に紛らわしくしているので、これもきっちりと把握しておく必要がある。
・同一人物に重複する名前が当てられることが不思議ではない。
・誰のことか読者に考えさせるためか、作為的に名前で呼ばないことがある。女運転士とか中年女医とか。
2:土地
・水や月を含めて独特の感覚がある、特に円錐状あるいは正多角形に掘り下げられた広場がお好きである。
・基本的に架空世界を描く。ただ今回は日本を思わせ、かつ携帯電話、車、路面電車、女子高生等々が出てくることから、昔話ではない。
3:対照的ペアリング
・対照的なものを並べるのが好きである。火と水、月と星、孔雀と大蛇、発火点と燃えにくい場所、山頂と公衆浴場源泉あるいはダクトだらけの地下、その地下売店と地上の煙草屋、姉妹と双子、等々
4:ルールの設定
・不条理な世界を筆に任せて書いているように見えて実は巧妙に計画されている。第一部のクライマックスにおける、川中島Q庭園で行われる火運びの儀式の禁忌などはそれがお遊びと化していて面白い。
人を喰ったような、それでいてユーモラスな禁忌ですが、これを一つ一つ丁寧に回収していくのですから、意外と律儀(笑。
他にも色々とありますが、この辺で。
さて、文章フェチとしては山尾悠子流美学に期待するわけですが、残念ながらこれまで読んできた作品に比べると簡潔でした。逆に言えば初めての人でも読みやすい。
本作の内容になぞらえて言えば、綺麗で愛すべき小動物が猛禽類に食べられた後、「ペレット」となり、それを
そしてこんな雰囲気の話をどこかで読んだぞ、みたいな妙に既視感があるのも気になりました。泉鏡花、澁澤龍彦、倉橋由美子あたりの影響があるのは当然のことなんですが、確か誰かがこんな話を書いていたような。それが誰のものか必死で思い出そうとしたんですが思い出せない。
川上弘美の「蛇を踏む」?小川洋子の「寡黙な死骸 みだらな弔い」?筒井康隆の「夢の木坂分岐点」?高村薫の「四人組がいた」?森見登美彦の「きつねのはなし」?江國香織の「つめたいよるに」?
どれも違うなあ、かといってカフカやオースター、ミルハウザーのような、あちゃらの不条理系とは違うしなあ、、、
ってどんだけ不条理な話ばっかり読んどるねん、って話ですけどね。
まあそんな感じを引きずりつつも最後まで一気に読んでしましました。山尾悠子のファンには嬉しい新作ですし、第I部最後の花火がパーンと上がるような華やかな盛り上がりと、第II部のしめやかに不条理を不条理のまま終息させるその対比の見事さには感心させられました。
とりあえず、以上で山尾悠子の現在手に入る作品は終了です。できればどこかで廃刊になった作品に巡り合えないものかとは思っていますが。。。
山尾悠子 シリーズ
ラピスラズリ
増補・夢の遠近法
山尾悠子作品集成
歪み真珠
「移ろい続ける夢のような幻想譚」(efさん)
「ーーー懐かしさの残る地方都市で催される盂蘭盆会の大茶会での怪異を地下の通路で結んだ異世界ファンタジーというか怪談。」(青玉楼主人さん)
「比類なき日本イメージの世界。この世界にただ身を委ねるのがこの本の読み方でしょう。」(darklyさん)
「それは、昔懐かしいどこかの風景なのか。荒廃した未来の光景なのか。」(ぷるーとさん)
「ストーリーが全然わからないのに心地よくて不思議。」(たけぞうさん)
「めくるめく夢の世界に浸る」(mari002さん)
それでなくても読む気満々でしたが、これだけの好評価を見ると読まないではいられませんね(^^♪。
伝説の幻想作家、8年ぶりとなる連作長編小説。 シブレ山の石切り場で事故があって、火は燃え難くなった。 シブレ山の近くにあるシビレ山は、水銀を産し、大蛇が出て、雷が落ちやすいという。真夏なのに回遊式庭園で大茶会が催され、「火を運ぶ女」に選ばれた娘たちに孔雀は襲いかかる。 ――「I 飛ぶ孔雀」 秋になれば、勤め人のKが地下の公営浴場で路面電車の女運転士に出会う。若き劇団員のQは婚礼を挙げ、山頂の頭骨ラボへ赴任する。地下世界をうごめく大蛇、両側を自在に行き来する犬、男たちは無事に帰還できるのか? ――「II 不燃性について」 「彗星のごとく戻ってきた山尾悠子が新たな神話圏を築いた」(清水良典氏)
「I 飛ぶ孔雀」は「文學界」2013年八月号と2014年一月号に発表された作品、「II 不燃性について」は本書のために書き下ろした作品とのことです。二作は時間がずれているもののほぼ同じ場所を舞台としており、ゆるやかな連関を持っています。
第I部は六つの掌編を重ねて火が燃えにくくなった世界を提示した後、中編レベルの「飛ぶ孔雀、火を運ぶ女 I,II」で一気に華やかなクライマックスにもってくるという、山尾悠子にしては珍しい(というか初めてかもしれない)劇的な展開で驚かせます。
一方第II部は十四の掌編で一つの物語を形成する連作形式で起承転結をつけている「感じ」でした。
「感じとはどういう事?」と言われそうですが、とにかく摩訶不思議で曖昧模糊とした不条理な世界観、表現も韜晦だらけで一向に展開が読めない、そして「結」でちゃんと落ちが付いたのかどうかもよくわからない。
さすが山尾悠子。
冗談はさておき、一読してこの作品のストーリーをすんなり受け入れられる人はまずいないでしょう。
ただ、いくつかの彼女のポリシー、傾向のようなものを知っておけば若干は読み易いかと思います。そういう留意点をいくつか挙げておきましょう。
1:人名
・アルファベットの頭文字が多いのでしっかりと把握しておくこと。
K,G,F,B,Qなど。これは倉橋由美子の影響。(と別の本の解説ではっきりと語っている)
・今回は女性の名前にカタカナ二文字が多く、かつおそらく故意に紛らわしくしているので、これもきっちりと把握しておく必要がある。
タエ、トエ、サワ、ヒワ、スワ、ミツ、セツ、リツなど。
・同一人物に重複する名前が当てられることが不思議ではない。
スワ、スワン、サワ。
・誰のことか読者に考えさせるためか、作為的に名前で呼ばないことがある。女運転士とか中年女医とか。
2:土地
・水や月を含めて独特の感覚がある、特に円錐状あるいは正多角形に掘り下げられた広場がお好きである。
・基本的に架空世界を描く。ただ今回は日本を思わせ、かつ携帯電話、車、路面電車、女子高生等々が出てくることから、昔話ではない。
3:対照的ペアリング
・対照的なものを並べるのが好きである。火と水、月と星、孔雀と大蛇、発火点と燃えにくい場所、山頂と公衆浴場源泉あるいはダクトだらけの地下、その地下売店と地上の煙草屋、姉妹と双子、等々
4:ルールの設定
・不条理な世界を筆に任せて書いているように見えて実は巧妙に計画されている。第一部のクライマックスにおける、川中島Q庭園で行われる火運びの儀式の禁忌などはそれがお遊びと化していて面白い。
禁忌は次のように伝えられた。
目的地に至るまで芝を踏んではならない。後悔することになる。
止め石、別名関守石に注意。これは常識中の常識。
園内唯一の乗り物である作業用トラクターは使用禁止。
話しかけられたら、応えるのが礼儀。
口笛を吹いてはいけない。頭上にオーロラ、もしくは類似のものが来る。
地面に火を落としたらそこで終わり。
(中略)とにかく芝を踏むな。育成中だから。
人を喰ったような、それでいてユーモラスな禁忌ですが、これを一つ一つ丁寧に回収していくのですから、意外と律儀(笑。
他にも色々とありますが、この辺で。
さて、文章フェチとしては山尾悠子流美学に期待するわけですが、残念ながらこれまで読んできた作品に比べると簡潔でした。逆に言えば初めての人でも読みやすい。
本作の内容になぞらえて言えば、綺麗で愛すべき小動物が猛禽類に食べられた後、「ペレット」となり、それを
頭骨ラボで骨格標本としてしまったかのよう。率直なところ私には「文章の美しさ」という点で物足りなかったです。
そしてこんな雰囲気の話をどこかで読んだぞ、みたいな妙に既視感があるのも気になりました。泉鏡花、澁澤龍彦、倉橋由美子あたりの影響があるのは当然のことなんですが、確か誰かがこんな話を書いていたような。それが誰のものか必死で思い出そうとしたんですが思い出せない。
川上弘美の「蛇を踏む」?小川洋子の「寡黙な死骸 みだらな弔い」?筒井康隆の「夢の木坂分岐点」?高村薫の「四人組がいた」?森見登美彦の「きつねのはなし」?江國香織の「つめたいよるに」?
どれも違うなあ、かといってカフカやオースター、ミルハウザーのような、あちゃらの不条理系とは違うしなあ、、、
ってどんだけ不条理な話ばっかり読んどるねん、って話ですけどね。
まあそんな感じを引きずりつつも最後まで一気に読んでしましました。山尾悠子のファンには嬉しい新作ですし、第I部最後の花火がパーンと上がるような華やかな盛り上がりと、第II部のしめやかに不条理を不条理のまま終息させるその対比の見事さには感心させられました。
とりあえず、以上で山尾悠子の現在手に入る作品は終了です。できればどこかで廃刊になった作品に巡り合えないものかとは思っていますが。。。
山尾悠子 シリーズ
ラピスラズリ
増補・夢の遠近法
山尾悠子作品集成
歪み真珠
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馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
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- 出版社:文藝春秋
 - ページ数:243
 - ISBN:9784163908366
 - 発売日:2018年05月11日
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