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darklyさん
darkly
レビュアー:
ジャケットの印象とは正反対の本格的な哲学書。チャレンジする価値はあると思います。
パステルカラーの柔らかい印象のジャケットと誰しも興味を持ちそうな題名ですが、中身はかなり本格的な倫理・哲学の本です。「過去と和解するにはこう考えればよい」程度の話が羅列しているような所謂人生訓のようなものではありません。数ページの小さな章毎に様々なテーマが論じられますが、難しい話もあり、私の理解力では「過去と和解する」というテーマとの関係がよく分からないものもありました。

そもそも過去は取り戻せないものであり、究極的には考えても仕方ないことにも思えます。筆者はこのことについてこのように述べています。
過去と対話し、和解する倫理学は可能なのか。もちろん、できないと言うことはやさしい。そして過去との和解は安易に語られるべきではない。しかし、「死んだら終わりだ、もう助からない、苦しみたくない、だから死ぬ」という発想を、存在を呪うものとして斥けるためには、過去との和解は語りえないとしても、語るしかない。哲学とは語りえないことを語ることに他ならないから
確かに過去を消すことはできませんが、過去をどのように捉えるか、私がとても感銘を受けた考え方を紹介したいと思います。

フランス文学者のジョー・ブスケは戦争での傷が元で21歳で半身不随となり、それから亡くなるまで30年あまりベッドで横たわったまま執筆活動を続けました。ブスケは「私の傷は私よりも前に実在していた。私は傷を受肉するために生まれた」と言いました。そして、傷を恨んだり呪ったりするのではなく「傷にふさわしい者」になることを目指しました。

なんという凄い考え方でしょう。一見すると「過去を受け入れる」あるいは「運命を受け入れる」という考え方のように思えますが、よく考えると違うことが分かります。「過去を受け入れる」あるいは「運命を受け入れる」というのはあくまで現在において「過去と和解」するということですが、「傷にふさわしい者になる」というのは思考が明らかに現在から未来へ向かっているということです。

過去に起こったことを変えられないのと同様に私たちは未来を予測することもできません。予測できないということは起こることを避けられないということです。良いことも悪いことも。ブスケは半身不随後の人生に起こったことも同じような考えのもと全力で生きたのだろうと思います。客観的には不自由な人生だったかもしれませんが、主観的には過去に捉われた普通の人よりも満足した人生だったのかもしれません。

前述のとおり、理解できない話もありましたが、元々私はこのような哲学や科学の本は60%程度分かるぐらいの本を読みたいと常々思っています。100%分かる本は読む価値が少なく、あまりにも分からないものからはその時点ではなかなか学べない。今回の理解は60%でも、これから様々な本を読むことでそのパーセンテージを上げていければいいと考えます。すみません、負け惜しみですね。

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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. ランピアン2018-10-20 23:58

    「過去との和解」は、今日の日本や欧米のような「先進国」に生きる人間にとって、まさに最重要のテーマです。

    「もしも過去が違っていたなら、自分はもっと幸福であったかもしれないのに」という思いをどう処理するか。それをうまく消化できない一部の人間が先鋭化すると、最悪の場合「アベンジャー型犯罪者」が誕生してしまう。私も長年苦しんできましたが、とうていうまく消化できているとはいえません。

    山内さんは中世哲学に通じた方で、中世の視点から現代を見ると、そこに潜む陥穽がよく見えるんだと思います。

  2. darkly2018-10-21 07:16

    おはようございます。ランピアンさんの知識の幅と深さには敬服するばかりです。まさにランピアンさんの問題意識についての本で、単に思想家の思想をなぞるというだけでなく、映画、小説などについてもそのテーマでの洞察があり、私のような素人向けなんでしょうけども、それでもよく分からないところもありました。

  3. ランピアン2018-10-21 11:16

    おかげさまで、本書の魅力がよくわかりました。ぜひ読んでみたいと思います。

    60%の読書術も、まさにそのとおりかと思います。未知の40%に果敢に挑戦されるdarklyさんの向上心には感服いたします。

  4. No Image

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