書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

Wings to fly
レビュアー:
等身大の青春の、不安も痛みも重苦しさも、瑞々しく心に突き刺さる。
フィギアのコスチュームをつけた少女の表紙と、「スピン」というタイトル、スケート競技にかける青春物語だろうと思って手に取ったのだが、良い意味で外れた。たいへんビックリさせられた。ストーリーもクライマックスもなく綴られてゆく、ごく淡々とした日常が、これほど胸に突き刺さってくるとは。

5歳から12年間、フィギュアとシンクロナイズドスケートの競技を続けた、著者自身の物語である。そして、本書は漫画である。「グラフィック・メモワール」というのだそうだ。

悩み苦しみながら自分の進むべき道を探り当ててゆくティリー。彼女は自分が同性愛者であることを自覚していて、それを人に知られることを恐れている。漠然とした不安や浮き立たない心を描きつつ、この作品が恐ろしいほどに瑞々しいのはなぜだろう。

「スケートは奇妙な敗北感をわたしにつきつけてくる。
女らしい要素のすべてに嫌悪を抱きながら
なおも魅了された。」

誰にも言えない心の内側を呟くように綴った文章と、早朝のスケートリンクの冷気がシンと伝わってくる繊細なタッチの絵。リンクの寒さと彼女の孤独感が、心の中で結びついてしまうからだろうか。一緒にいる女の子たちに迎合してしまう言葉と、本当に思うことの独白も、同じ絵の中にある。絆を感じない集団の中にいる時の感覚が、まっすぐに伝わってくるからだろうか。

学校生活、家族、友情と恋。アイススケート競技の経験者でなければ書けない風景と心情も、この本ならではのものだ。あとがきの中で著者は「演技をすると観客に自分をさらけ出さなくてはいけない」と書いている。
スケーターのティリー、17歳までの心の旅は「自分は何を望み、どう生きようとしているのか」の試行錯誤である。同じ課題を模索しながら青春を生きる若者(と、その頃の自分を忘れないでいる人々)の共感を呼ぶことだろうと思う。

話の冒頭で、ティリーは久しぶりにスケートリンクの扉をくぐる。何のために滑りに来たのかが描かれるエピローグに、目頭が熱くなる。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

読んで楽しい:4票
素晴らしい洞察:1票
参考になる:25票
共感した:2票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『スピン』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ