レビュアー:
▼
等身大の青春の、不安も痛みも重苦しさも、瑞々しく心に突き刺さる。
フィギアのコスチュームをつけた少女の表紙と、「スピン」というタイトル、スケート競技にかける青春物語だろうと思って手に取ったのだが、良い意味で外れた。たいへんビックリさせられた。ストーリーもクライマックスもなく綴られてゆく、ごく淡々とした日常が、これほど胸に突き刺さってくるとは。
5歳から12年間、フィギュアとシンクロナイズドスケートの競技を続けた、著者自身の物語である。そして、本書は漫画である。「グラフィック・メモワール」というのだそうだ。
悩み苦しみながら自分の進むべき道を探り当ててゆくティリー。彼女は自分が同性愛者であることを自覚していて、それを人に知られることを恐れている。漠然とした不安や浮き立たない心を描きつつ、この作品が恐ろしいほどに瑞々しいのはなぜだろう。
「スケートは奇妙な敗北感をわたしにつきつけてくる。
女らしい要素のすべてに嫌悪を抱きながら
なおも魅了された。」
誰にも言えない心の内側を呟くように綴った文章と、早朝のスケートリンクの冷気がシンと伝わってくる繊細なタッチの絵。リンクの寒さと彼女の孤独感が、心の中で結びついてしまうからだろうか。一緒にいる女の子たちに迎合してしまう言葉と、本当に思うことの独白も、同じ絵の中にある。絆を感じない集団の中にいる時の感覚が、まっすぐに伝わってくるからだろうか。
学校生活、家族、友情と恋。アイススケート競技の経験者でなければ書けない風景と心情も、この本ならではのものだ。あとがきの中で著者は「演技をすると観客に自分をさらけ出さなくてはいけない」と書いている。
スケーターのティリー、17歳までの心の旅は「自分は何を望み、どう生きようとしているのか」の試行錯誤である。同じ課題を模索しながら青春を生きる若者(と、その頃の自分を忘れないでいる人々)の共感を呼ぶことだろうと思う。
話の冒頭で、ティリーは久しぶりにスケートリンクの扉をくぐる。何のために滑りに来たのかが描かれるエピローグに、目頭が熱くなる。
5歳から12年間、フィギュアとシンクロナイズドスケートの競技を続けた、著者自身の物語である。そして、本書は漫画である。「グラフィック・メモワール」というのだそうだ。
悩み苦しみながら自分の進むべき道を探り当ててゆくティリー。彼女は自分が同性愛者であることを自覚していて、それを人に知られることを恐れている。漠然とした不安や浮き立たない心を描きつつ、この作品が恐ろしいほどに瑞々しいのはなぜだろう。
「スケートは奇妙な敗北感をわたしにつきつけてくる。
女らしい要素のすべてに嫌悪を抱きながら
なおも魅了された。」
誰にも言えない心の内側を呟くように綴った文章と、早朝のスケートリンクの冷気がシンと伝わってくる繊細なタッチの絵。リンクの寒さと彼女の孤独感が、心の中で結びついてしまうからだろうか。一緒にいる女の子たちに迎合してしまう言葉と、本当に思うことの独白も、同じ絵の中にある。絆を感じない集団の中にいる時の感覚が、まっすぐに伝わってくるからだろうか。
学校生活、家族、友情と恋。アイススケート競技の経験者でなければ書けない風景と心情も、この本ならではのものだ。あとがきの中で著者は「演技をすると観客に自分をさらけ出さなくてはいけない」と書いている。
スケーターのティリー、17歳までの心の旅は「自分は何を望み、どう生きようとしているのか」の試行錯誤である。同じ課題を模索しながら青春を生きる若者(と、その頃の自分を忘れないでいる人々)の共感を呼ぶことだろうと思う。
話の冒頭で、ティリーは久しぶりにスケートリンクの扉をくぐる。何のために滑りに来たのかが描かれるエピローグに、目頭が熱くなる。
お気に入り度:









掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。
- この書評の得票合計:
- 32票
読んで楽しい: | 4票 |
|
---|---|---|
素晴らしい洞察: | 1票 | |
参考になる: | 25票 | |
共感した: | 2票 |
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。
この書評へのコメント
コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:河出書房新社
- ページ数:400
- ISBN:9784309279183
- 発売日:2018年02月24日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。