DBさん
レビュアー:
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自己の喪失と脳についての本
「私はすでに死んでいる」というどういう意味にとらえたらいいのか悩むタイトルですが、間違いなく生きて話しているにも関わらずこのように訴えるコタール症候群という病気があるそうです。
「精神は生きているが脳は死んでいる」と確信している自殺未遂を起こした男性、何度も手術を繰り返した結果自分は死んでいると思い込むに至った女性、自分は生ける屍だと思い棺に入って埋葬されるのを待っていた少女。
通常であれば妄想として片付けられる症例だが、自己感覚と環境認知を変質させる何かが原因なのではと考えた医者がいた。
PET検査の結果脳の正中溝近辺の代謝が低下したために自己感覚が大幅に失われた可能性があると言えるそうです。
このコタール症候群やアルツハイマー、身体完全同一性障害(BIID)統合失調症、離人性障害、自閉症といった疾患から、自己と認識するのは脳にとってどういう働きがあり意味を持つのかを探っていく。
黒くなった右腕を左手でつかんでいる男性の表紙ですが、これはまさにBIIDの患者が持つ概念を具象化したものだろう。
自分の足や腕が自分のものではないと感じるBIIDの症例はサックス博士のケーススタディでも登場したが、実際にその自分のものと感じられない足や腕を切り落としてしまう人もいるそうです。
実際に片足に違和感を持ち続けて追い詰められていた男性が、アジアのある国で切断手術を受けるのにも同行したそうですが、自己と非自己の感覚ってこれほど強い物なのかと驚かされる。
村上龍の『イビサ』の意味がようやく分かった気もするが、神経障害という一言では片付けられない問題ですね。
アルツハイマーは患者数も多いので、その原因であるアミロイドについてはだいぶわかってきたはずだ。
自分がどんな人間かを説明するエピソード記憶を呼び出し、未来にも投影することができるナラティブ・セルフというそうですが、このナラティブ・セルフの形成が減速し停止してしまうのがアルツハイマーだという。
自分が自分でなくなる時を誰もが怖れることを象徴するかのような病気だ。
子供の頃の虐待が原因で離人症性障害になった患者や、ドッペルゲンガー体験、自分の身体から抜け出したような幻覚である体外離脱といった症例も、被験者にその背景も詳しく聞き取っています。
その文章からは症状ではなく人間を見ている感じがした。
冒頭で語られる鬼に身体をバラバラにされ解脱した男の話がエピローグにも登場して話をまとめている。
脳の働きについて具体例から教えてくれる本だった。
「精神は生きているが脳は死んでいる」と確信している自殺未遂を起こした男性、何度も手術を繰り返した結果自分は死んでいると思い込むに至った女性、自分は生ける屍だと思い棺に入って埋葬されるのを待っていた少女。
通常であれば妄想として片付けられる症例だが、自己感覚と環境認知を変質させる何かが原因なのではと考えた医者がいた。
PET検査の結果脳の正中溝近辺の代謝が低下したために自己感覚が大幅に失われた可能性があると言えるそうです。
このコタール症候群やアルツハイマー、身体完全同一性障害(BIID)統合失調症、離人性障害、自閉症といった疾患から、自己と認識するのは脳にとってどういう働きがあり意味を持つのかを探っていく。
黒くなった右腕を左手でつかんでいる男性の表紙ですが、これはまさにBIIDの患者が持つ概念を具象化したものだろう。
自分の足や腕が自分のものではないと感じるBIIDの症例はサックス博士のケーススタディでも登場したが、実際にその自分のものと感じられない足や腕を切り落としてしまう人もいるそうです。
実際に片足に違和感を持ち続けて追い詰められていた男性が、アジアのある国で切断手術を受けるのにも同行したそうですが、自己と非自己の感覚ってこれほど強い物なのかと驚かされる。
村上龍の『イビサ』の意味がようやく分かった気もするが、神経障害という一言では片付けられない問題ですね。
アルツハイマーは患者数も多いので、その原因であるアミロイドについてはだいぶわかってきたはずだ。
自分がどんな人間かを説明するエピソード記憶を呼び出し、未来にも投影することができるナラティブ・セルフというそうですが、このナラティブ・セルフの形成が減速し停止してしまうのがアルツハイマーだという。
自分が自分でなくなる時を誰もが怖れることを象徴するかのような病気だ。
子供の頃の虐待が原因で離人症性障害になった患者や、ドッペルゲンガー体験、自分の身体から抜け出したような幻覚である体外離脱といった症例も、被験者にその背景も詳しく聞き取っています。
その文章からは症状ではなく人間を見ている感じがした。
冒頭で語られる鬼に身体をバラバラにされ解脱した男の話がエピローグにも登場して話をまとめている。
脳の働きについて具体例から教えてくれる本だった。
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好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。
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- 出版社:紀伊國屋書店
- ページ数:352
- ISBN:9784314011563
- 発売日:2018年02月15日
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