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星落秋風五丈原
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いついかなるときにも 本はわたしたちのそばにある
 「無人島に行くなら、一冊何を持っていく?」
本好きの間では、よく話題になる。しかし本当に無人島に行ったなら、本の事を考えるのは後回しになる。食糧、寝る場所、脱出方法等々、他に考えるべきことは沢山あるからだ。この質問が出来ること自体、平和な国で生きていることの表れだ。

 矛盾するようだが、一方で、たとえどんな非日常―今の私達から見て―においても、人は本を読む。読まずにはいられない。

 最近困難な状況の中で図書館を維持するノンフィクションを多く読むのも、本を愛する人達の事を知りたいからだ。悪名高き収容所で密かに図書館を維持し続けた実話を元にしたノンフィクション『アウシュヴィッツの図書係』、第二次大戦時、戦場の兵士たちに本を送り続けた活動を綴った『戦地の図書館 (海を越えた一億四千万冊)』、時代はぐっと現代に近づいた『アルカイダから古文書を守った図書館員』、等々。本の好みは違っても、本を好きだという一点で、私達と彼等の想いは繋がる。

 本書もまた、とびきりの本好きの人達が登場する、爆弾飛び交う街で図書館を守った人々の実話だ。残念ながら守り切ることはできなかった。舞台となる街ダラヤは、政府軍の手に落ちて民間人は撤退させられたからだ。彼等が必死に守り集めた書籍は安価で売られた。本は武力に対して無力なのか。

 いや、違う。いちど本を読んだ人達は、新しい思想、力強い言葉、現実とは違う世界に触れて生きる力を取り戻し、明日への指標を見つける。本になって溢れ出た思いは、次々に人を動かしていく。図書館を奪われた人達は、新たな場所で再び図書館を運営する。何度燃やされても本の世界は揺るがない。時代を越えて、人種を越えて、かつて本や図書館を破壊した人達の人生より遥かに長く遠く広く、生き続けていく。

 ルポルタージュという割には書き手の感情が勝った箇所もあったが、一度も取材対象と会えなかった分、彼等に思い入れが強かったと思われる。
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2338 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2018-04-18 05:20

    この本、私も丁度レビューを書き終えて、さきほどアップしたところなのですが、取材対象、取材方法を含め、興味深い本でしたね。

  2. 星落秋風五丈原2018-04-19 21:42

    かもめ通信さん、こんばんは。コメントありがとうございます。ノンフィクションとしてはかなり書き手の感情が勝った内容になっていたなと思いました。困難な中でも本を読むことをやめない人たちの話を知ると励まされます。

  3. No Image

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