書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

星落秋風五丈原
レビュアー:
遊郭と芝居町 江戸から明治への変遷
 何度か装丁を変えて出版されており、本当は春陽文庫のイラストの表紙の方を登録したかったが、できなかったのでこちらに描く。

 吉原の遊女屋・笹屋の娘「ゆう」は、九歳の時に両国の盛り場に迷い込んだ所を、旅役者の福之助に助けられる。五年後、少女となったゆうは、福之助と再会し、思いを募らせていく。

 困っている所を助けられた男性に女性が恋する。王道ボーイ・ミーツ・ガールであり、解説で著者も述べているように、ゆうのビルドゥングス・ロマンであり、幕末から明治への変遷を描いた時代小説である。

  時代色のため、ゆうの反抗は“家が決めた結婚を断り、福之助と共にいること”だけに留まっている。しかし遊郭で、身を売る女性たちに対して無自覚ではなかった、という描写はある。

 ゆうが恋する福之助は実在の人物で、江戸時代末期に両国において、富田角蔵・金太郎と粗末な小屋で、薦芝居を行っていた。1873年(明治6年)の両国橋畔の興行禁止令により、現在の明治座となる喜昇座ができると、三人兄弟は座組から外されてしまう。飴売りという出自が、忌まれたのである。本編では、兄貴分が角蔵、けんかっ早い金太郎、顔がよくてもてている福之助というキャラクター分けができている。福之助はとりわけ澤村田之助に信奉していた。北村鴻作品『狂乱二十四孝』にも登場する、歌舞伎界ではかなりの有名人である。天才子役から人気女形にかけのぼったが、脱疽により四肢を切断した。本編では、福之助が田之助を救ったり、後年嘲られる田之助を見ながらも、彼には叶わないと実感する場面が登場する。彼の芝居における師匠であり、越えられない壁である。

 福之助は芝居町の変遷により切り捨てられるが、ゆうもまた、明治政府が一旦出した芸娼妓解放令により、商売の危機にさらされるが、結局のところ、吉原に売られてきた娘が戻っていく場所もなかった。私娼になったり、個人的に契約をして遊女に戻ったりする女性もおり、ただ禁止するだけではセーフティネットにはならなかったのである。


 第95回(1986年)直木賞受賞作。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2341 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

参考になる:20票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『恋紅(新潮文庫)』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ