紅い芥子粒さん
レビュアー:
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第九十五回直木賞(昭和六十一年上半期)受賞作品。
幕末から明治へ、江戸から東京へ、激動の時代を背景に、遊女屋の娘と旅役者の恋を描く。
ゆうは、吉原の遊女屋『笹屋』の娘。
過酷な遊女たちの人生を目の当たりにして育った。
貧しい家の女の子が、五、六歳で遊女屋に売られてくる。
七歳で花魁の小間使いをする禿になる。
ありんすの廓言葉を覚え、初潮をみれば一人前の遊女として客をとらされる。
花魁にまで出世できたとしても、しょせんは客のなぐさみもの。
維新の争乱で、主人やおかみの盾にされ、惨殺された禿がいた。
客に梅毒をうつされ、客引きの使用人と心中した花魁がいた。
明治になり、遊女解放令が出されたが、よろこびいさんで故郷へ帰った遊女たちは、またすぐに遊女屋にもどってくる。
貧困や差別がそのままで、彼女たちが自由になれるはずがない。
笹屋の主人一家は、遊女たちに稼がせたお金を搾取して裕福な暮らし。
ゆうは、「お嬢さん」と呼ばれ、乳母日傘で育った。
おひいさまのような安全で安楽な暮らしが、苦界に沈む女の子たちを踏み台にして成り立っていることに、ゆうは深い罪悪感を抱いている。
うしろめたい思いをせずに生きたい。
他人を縛り、自分を縛るような人生はいやだ。
自分が笑うために別の一人が泣くような生き方はしたくない。
少女から娘へと成長していくにつれ、ゆうは切実に願うようになる。
ゆうには、恋焦がれるひとがいた。
垢離場の掛け小屋の役者、福太郎。
三座の役者のような品や格はないが、福太郎の芸には、人を包み込む温かさがあると、ゆうは思う。
ときどきのぞく、掛け小屋の楽屋に、ゆうは、不思議に軽やかな暮らしを見る。
わけあって、福太郎たちの一座が、旅興行をすることになったとき、ゆうは、なんのためらいもなく一座に加わる。役者たちの衣装をつくろったり、賄をしたり、舞台の袖で三味線を奏でたり。できることは、いくらでもあった。
旅役者の暮らしは、ゆうが思ったほど軽やかでも自由でもなかった。
座元に騙されたり、役者たちは、金のために色を売ったり……
物語の前半が、遊女の地獄を描いているなら、後半は、役者の地獄が描かれている。
しかし、ゆうに後悔はない。芝居という夢の花を咲かせて歩く漂泊の暮らしが、心底好きだと思う。なにより、福太郎のそばにいられるだけでしあわせだ。
ゆうは、行く先々で、桜の種を植えていく。
その種は、維新の争乱で、ゆうの両親の盾にされて殺された、まだ幼い禿の墓に咲いた花の種だ。
旅の役者が夢の花を咲かせたその跡に、いつか遠い日、桜の花道ができるだろう。
過酷な遊女たちの人生を目の当たりにして育った。
貧しい家の女の子が、五、六歳で遊女屋に売られてくる。
七歳で花魁の小間使いをする禿になる。
ありんすの廓言葉を覚え、初潮をみれば一人前の遊女として客をとらされる。
花魁にまで出世できたとしても、しょせんは客のなぐさみもの。
維新の争乱で、主人やおかみの盾にされ、惨殺された禿がいた。
客に梅毒をうつされ、客引きの使用人と心中した花魁がいた。
明治になり、遊女解放令が出されたが、よろこびいさんで故郷へ帰った遊女たちは、またすぐに遊女屋にもどってくる。
貧困や差別がそのままで、彼女たちが自由になれるはずがない。
笹屋の主人一家は、遊女たちに稼がせたお金を搾取して裕福な暮らし。
ゆうは、「お嬢さん」と呼ばれ、乳母日傘で育った。
おひいさまのような安全で安楽な暮らしが、苦界に沈む女の子たちを踏み台にして成り立っていることに、ゆうは深い罪悪感を抱いている。
うしろめたい思いをせずに生きたい。
他人を縛り、自分を縛るような人生はいやだ。
自分が笑うために別の一人が泣くような生き方はしたくない。
少女から娘へと成長していくにつれ、ゆうは切実に願うようになる。
ゆうには、恋焦がれるひとがいた。
垢離場の掛け小屋の役者、福太郎。
三座の役者のような品や格はないが、福太郎の芸には、人を包み込む温かさがあると、ゆうは思う。
ときどきのぞく、掛け小屋の楽屋に、ゆうは、不思議に軽やかな暮らしを見る。
わけあって、福太郎たちの一座が、旅興行をすることになったとき、ゆうは、なんのためらいもなく一座に加わる。役者たちの衣装をつくろったり、賄をしたり、舞台の袖で三味線を奏でたり。できることは、いくらでもあった。
旅役者の暮らしは、ゆうが思ったほど軽やかでも自由でもなかった。
座元に騙されたり、役者たちは、金のために色を売ったり……
物語の前半が、遊女の地獄を描いているなら、後半は、役者の地獄が描かれている。
しかし、ゆうに後悔はない。芝居という夢の花を咲かせて歩く漂泊の暮らしが、心底好きだと思う。なにより、福太郎のそばにいられるだけでしあわせだ。
ゆうは、行く先々で、桜の種を植えていく。
その種は、維新の争乱で、ゆうの両親の盾にされて殺された、まだ幼い禿の墓に咲いた花の種だ。
旅の役者が夢の花を咲かせたその跡に、いつか遠い日、桜の花道ができるだろう。
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:265
- ISBN:B01GJGM6IM
- 発売日:1989年04月01日
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