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darklyさん
darkly
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アンドレアスセシェの邦訳3冊目は音楽小説であり恋愛小説。読んでいること自体が幸せに感じるほど美しい文章
マスクラン村の近郊の砂漠で一人の男が瀕死の状態で救出された。男の名前はセリムといいシラケシュから来たという。回復したセリムはイブラヒムにシラケシュで何が起こったのかを語り始める。またイブラヒムは自分の妻が射殺されたと思っており未だ心の傷が癒えていない。

セリムは少年時代、森の中でヴァイオリン職人であり演奏家でもあるアリフに出会う。ヴァイオリンの世界に魅了されたセリムはアリフの元でヴァイオリン奏者としての修業を積む。アリフは言う。
ヴァイオリンには好きなだけ手を加えられる。だが改善できるのは響きだけだ。しかし、音楽、それはおまえ自身の中から湧きでるものだ。どんなやり方にせよ、おまえの中で混ざり合ったものだ。なぜならそれこそが、おまえがヴァイオリンに注ぎ込むプロセスの結果だからだ。おまえの内なる編曲だ。
セリムはアリフの元でミリアムと出会い恋に落ちる。その幸せも長くは続かなかった。

シラケシュは平和なイスラムの国であったが、独裁者が現れ全体主義の中、人々は自由と人生の楽しみを奪われ密告に怯える暗い生活を送り始める。ミリアムは圧政から逃れるためにアメリカへと旅立ってしまった。そんな中、アリフは街でヴァイオリンを弾き、人々の心を揺さぶろうとするが人々は動かず、体制側から射殺される。

ヴァイオリン演奏を極めたセリムはひょんなことから独裁者の宮殿で演奏することになる。そこでの演奏はアリフが動かすことができなかった人々の心を揺さぶる。自由の喜び、人生の喜びを。そのうねりは瞬く間にシラケシュ全体に広がり、独裁者打倒への動きにつながっていく。

本作品はドイツ人作家であるアンドレアスセシェの邦訳三冊目となります。最初に翻訳された「囀る魚」も次に翻訳された「ナミコとささやき声」もとても気に入った作品であったため当然この作品も手に取ることになりました。

これは音楽の物語です。ヴァイオリンという楽器とその演奏家による音楽の力を主題として、セリムとミリアムの恋の物語、またイブラヒムとその妻の物語を描いた美しい小説です。

章は短く、第一楽章から第56楽章まであり、それぞれの楽章にラルゴやモデラートなどの発想標語がついており物語全体が一つの音楽であることが明示されます。そして楽章の間に「間奏」があり、ストラディヴァリなど製作者の話やパガニーニの伝説などが挿入され私のように詳しくない者にも物語の興味を失わないような配慮がされています。

「蝉の交響詩」という題名は、蝉は17年土の中にいて羽化し一斉に飛び立つので全滅することがないように、独裁者に対して一斉蜂起する民衆を意味していると思われます。そしてそのきっかけとなるのがセリムが編曲し奏でたサン=サーンスの交響詩「死の舞踏」。

また17年という歳月はセリムとミリアムが離れ離れになっていた年月でもあります。じっと17年耐え、ミリアムと再会し、本当の人生を歩み始めるセリムについても「蝉」に重ねているのでしょう。

でも、外国では蝉は17年も土の中にいるのですね。蝉は7年と勝手に思い込んでいました。ネットで調べてみるとせいぜい4~5年のようです。

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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. マーブル2018-07-05 20:36

    サイモン·シンの『フェルマーの最終定理』で 17年ゼミが陸上に出て成虫になる周期について素数としての17に意味があるのではないかという説が書かれていました。セミに寄生する寄生虫の発生とずらした周期を取り、生き残るために自然が取った作戦が素数を選ぶことだったのでは?と言う事でした。面白いですよね。

  2. darkly2018-07-05 20:44

    宇宙の神秘かもしれません。

  3. No Image

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