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三太郎さん
三太郎
レビュアー:
人間が音楽を楽しむ能力は人間に特有の認知能力と関係があるらしい。何故人が音楽を好むのかという問いに答えた本。
まず本の日本語タイトルについてですが、原題(Why You Love Music)とはかけ離れているようです。実は特にドビュッシーの音楽がどうという話はなくて、ワイン売り場で、BGMにフランスのクラシック音楽を流した時とドイツのクラシック音楽を流した時とで比較すると、前者ではフランスのワインが後者ではドイツのワインがよく売れるんだとか。でもこれは独仏のクラシック音楽の差を知っている欧米の顧客相手の場合で日本でやったら関係ないかも?

でも、快活でテンポのよい音楽を聴くと、それがドビュッシーでもモーツァルトでも、聴いた人は快活な気分になるのだとか。そんな時に飲むワインは美味しくてお酒が進むのではないかな(スランソワ・ラブレーなら音楽で喉がカラカラに乾いたわいというかも)。

この本の著者は大学で作曲と物理学を学び、音響物理学の教授になったという人です。音楽を心理と物理の両面から検討し、我々がなぜ音楽が好きなのかを解き明かします。

さて本の内容ですが、子供に音楽を習わせるとIQが上がるという研究結果があるとか。僕の母親は僕が小さい頃にバイオリンやピアノを習わせようとしましたが、僕は拒絶したのでIQを上げるチャンスを逃したようです。

また人の音楽に対する趣味は子供の頃にどんな音楽に親しんだかで決まるのだとか。音楽のジャンルと性格の間にも関係があり、「内省的で複雑な音楽(クラシック、ジャズなど)」を好む人は運動が苦手で言語能力に長けており政治的にはリベラルなことが多く、「陽気で様式化された音楽(ポップス、カントリー&ウェスタンなど)」を好む人は運動を好み政治的には保守的なことが多いのだとか(僕の場合は当たっているようです)。

四つの同じ単音楽器(例えば四本のフルート)で一つの主旋律と三つの和声的な伴奏を同時に演奏した時、聴いた人は必ず主旋律を聞き分けるのだそうです。さらに、主旋律と伴奏の音をバラバラにして楽器ごとに適当に振り分けて演奏しても(一つの楽器の旋律では主旋律と伴奏の音が混ざっていても)、それでも聴いた人は主旋律が解るのだとか(実際に演奏を聴いてみたいですね)。どうしてなのか理由は分からないとか。人は和声的な音楽から主旋律を選び出す本能のようなものがあるらしい。

ポップスでもクラシック音楽でも、曲を聴いた人は幾つかの小節をひとまとめにして一つのフレーズだと認識するのだとか。しかもそのフレーズを演奏する際には、無意識にでもフレーズの中ほどはテンポが速くなり、フレーズの終わりでテンポが遅くなるのだとか。

西洋音楽に限らず世界中の音楽でフレーズ内のテンポは変化する傾向がありますが、アフリカのドラム音楽ではテンポを揺らすことは禁じられているとか。

この音楽では複数のドラムが拍数のことなる打音を重ねるのだとか。例えば最初のドラムが1,1,1,1という4拍目に強拍があるリズムで演奏し、二番目のドラムが1,1,1という、3拍目に強拍があるリズムを奏で、両者を重ねると、拍ごとに複雑に強度が変化し12拍で一巡するポリリズム音楽が出来上がります。西洋音楽では音程が大事ですがアフリカの音楽ではリズムが大事なのでしょう。

(ホルストの惑星組曲の中の「火星」では冒頭にこのポリリズムが出て来て、ブラスバンドで演奏するとき苦労したことを思い出しました。)

なぜ西洋音楽の音階には7つの音があるのか(中国や日本の伝統的な音階では5つだが)には、人間の記憶能力の制限が関係するとか。人は7個程度の音程しか覚えられないのだとか。だからシェーンベルクの12音音楽は失敗したのだと著者は主張しています。

それ以外にもいろいろ興味深い知見が満載でした。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:828 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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