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はなとゆめ+猫の本棚
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生活保護は、困窮者家庭を救う。しかし、受給者が年々増加し、国は保護費を削減したい。この矛盾を一手に引き受けるのが、役所の窓口の人たちである。
 映画にもなった本作、中山七里の作品。

 8年前塩釜の福祉保険事務所が放火される。犯人は利根勝久。懲役10年の実刑判決を受けるが、8年で仮釈放され、刑務所を出所する。

 その直後、塩釜の福祉保険事務所で8年前課長をしていた三雲とその上司である城之内が誰も住んでいない朽ち果てそうな住宅から死体になって仙台青葉区で発見される。手足は縛られ、猿轡を嵌はめられた状態で、死因は餓死という異常殺害。

 捜査一課刑事の笘篠と蓮田が、殺害された2人が、塩釜の福祉保健事務所で上司、部下の関係で、働いていたことに事件と関係あるのではと推理捜査を始める。

 福祉保険事務所というのは、色々な業務があるが、その中の最も重要な仕事は、生活保護申請の認否判断と手当の支給である。

 生活保護というのは、困窮者が最早生活することができないという状態でも、最低生活が憲法で保障していることによって、その生活のための手当を国から支給し、生活の保障を確保してあげる制度のことである。

 一見この制度は、困窮者、弱者に寄り添う良い制度のように思えるが、最早、この制度を利用しなければ暮らしが成り立たない状態と認められなければ、生活保護受給者にはなれない。

 事務所の窓口は、貧困者に寄り添っているように想像するが、かなりの申請者が受給条件を満たしていないという判断で、困窮者認定を却下される。しばしば、申請者が窓口担当者に襲い掛かることがあり、これをバックヤードにいる人間やガードマンが間にはいり阻止する。

 窓口の人間は申請の受付と申請認否の業務だけでなく、現在の受給者が、認可条件に適合しているかを確認するため、受給者の住宅を訪問。そこで不適合がみつかると、保護費の支払いを止める仕事までする。
課長以上は、窓口や訪問調査をするわけでなく、危険な状態になることはない。

 こういうことになるのは、年々生活保護費受給者が増加して、資金が足りなくなる懸念があるからである。

 この作品でも、北九州小倉で独り住まいの老婦人が、生活保護費が受けられずに自宅で餓死してしまったことが話題になった時、厚労省の福祉保健の全国会議で、北九州市が生活保護支給額が前年より少なくなったと報告され、出席者が厚労省の賞賛を浴びている。

 この作品では、三雲と城之内の被害者の上司だった上崎が3人目の殺害を受ける人間として狙われる。

 捜査をしている刑事笘篠と蓮田は当然8年の刑務所生活から出所した利根勝久が犯行を実行するだろうとして追跡を始める。
この部分が長いのだが、読者である私は、利根が犯人になってほしくはないと思いながら読み進む。

 そして結果犯人は、生活保護認定業務を担当している事務所の窓口の人間だったことを知り、これは素晴らしい結末だと思った。

 矛盾を一身に抱えているのは、窓口の人間だからである。
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はなとゆめ+猫の本棚
はなとゆめ+猫の本棚 さん本が好き!1級(書評数:6225 件)

昔から活字中毒症。字さえあれば辞書でも見飽きないです。
年金暮らしになりましたので、毎日読書三昧です。一日2冊までを限度に読んでいます。
お金がないので、文庫、それも中古と情けない状態ですが、書評を掲載させて頂きます。よろしくお願いします。

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