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Wings to fly
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笑いと涙と温もりの中に描かれる、生まれくる命を待ち受ける家族の姿。
ロサンゼルスに住むジョン・ファンテ君には、もうすぐ赤ちゃんが生まれる。ファンテ君はほどほどに売れっ子の作家兼シナリオライターで、妻のジョイスをどうしようもなく愛している。
ジョイスのお腹にはいま小さな山ができていて、彼女は時々気まぐれでつっけんどんになる。何気ないひと言が原因で冷ややかに見つめられると、自分が無知で愚鈍で疎ましい、人ですらない存在なんじゃないかと思ってしまう。ファンテ君にしても、妻のお腹を触ったら赤ちゃんの頭がふたつあったと思いこみ、病院に駆け込んだりするのだけれど。

赤ちゃん誕生の期待と不安に翻弄される彼らの姿に、時々どうしようもなく微笑みがこみあげてくる。1950年代のアメリカ、のんびりした情景も素敵だ。田舎で引退生活を送るファンテ君の両親の家の、イチジクの大木が日陰を作る裏庭、巣立った子どもたちの代わりに育てている丸々とした4匹の猫。母はオリーブオイルとハーブでピーマンを炒め、孫息子の誕生に思いを馳せる父は木陰で冷たい赤ワインを飲んでいる。こんな穏やかな光景の中に帰るファンテ君は、幸せな息子なのだ。本人はそれを全然わかってないのだけれど。

男の子の内孫を熱望する父は、ファンテ君が帰郷して近くに住むことを夢見ていた。その夢は傷心と共に崩壊し、父はシロアリ被害にあった息子の家を直しに、共にロサンゼルスへと旅立つ。このあたりから、移民一世の父と都会派の息子は世代間バトルを繰り広げる。最後のひと言で息子を打ち負かしちゃう父、どこまでが演技かわからないお茶目ぶりが、またまた笑わせる。

気持ちが不安定になっている嫁の肩を抱きつつ、「この男(註:自分の息子である)とは縁を切りな。こいつは人に迷惑をかけることしかできないんだ。」と言いつつ、「赤ん坊が生まれたら、あんたは俺たちの家で暮らしたらいい。」おいおいお父さん、それはあんたの願望でしょうとニタニタしつつ、息子の嫁に対する混じりけのない優しさにジーンとなる。「心温まる可笑しみ」としか言いようのないユーモアに彩られた作品である。

親になったとしても、自分の親の前では子どもは永遠に子どもなのだ。新しい命を迎える喜びと、親から子へとつながれてゆく人生の輝きに満たされる。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. ぱせり2018-08-31 08:04

    Wingsさん、おはようございます。
    改めて、Wingssさんのレビューを読み、この本の大好きな所を余さず語る素敵な書評、と思ったのでした~。
    ジョンの両親も、その住まいも、とっても素敵でした。
    おとうさんのおちゃめなことったら、すっかりファンになってしまいました。(最後のひとこと、最高!!)
    Wingsさんの最後の二行に、深く深く頷いています。

  2. Wings to fly2018-08-31 13:55

    ぱせりさん
    星5個の評価にニンマリしています(笑)良かった良かった^ ^
    きっとこの作品は(おじいちゃんもあの家も)気に入って下さると思ってました!

  3. No Image

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