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かもめ通信
レビュアー:
この美しさはどこからくるのか?!ありがとう #日本翻訳大賞 !!熱く推薦してくれる方がいなかったらきっと手に取らなかったであろう本なだけにことさら出会いがうれしい。
張愛玲(ちょう あいれい/アイリーン・チャン)が、
日清戦争の講和条約である下関条約で清側の全権大使となり、
調印を行ったことでも知られる李鴻章の外曾孫という名家の出で、
1940年代にデビューして人気を博した作家であり、
やがてアメリカに渡り、かの地で不遇の死を迎えたという話は、
どこで聞きかじったのかは定かではないがなんとなく知っていた。

けれども、その作品を読んだことはなく読んでみようと思ったこともなかった。
そんな私がこの本を手に取ったのは、
第4回日本翻訳大賞の一般推薦で、
この翻訳の美しさ、素晴らしさを讃える投稿を
幾つも見かけたからだった。

実際に読み始めてみるとこれがもう驚くほど、
冒頭から視覚に訴えてくるものがある。

巻頭に収録されているデビュー作「沈香屑 第一炉香」は香港が舞台。

上海の中流家庭・葛家は
二年前戦争になるときいて一家で香港に避難したものの
香港の物価高に一家の資産がついていかず、再び上海にもどることになる。
物語は葛家の娘の薇龍が香港の高校で学問を続けるための援助を乞うべく
両親に内緒で伯母の屋敷を訪れる描写からはじまる。

その伯母はかつて、親族の薦める結婚を蹴って
豪商の4人目の妾になったことで、実家と絶縁状態にあった。
そんな関係にある伯母を頼らなければならないほど
娘は切羽詰まっていたのだが、
訪れた伯母の住む豪邸に彼女は目を見張る。

建物についても庭に咲く花々についても
このシーンの描写がとにかくすごい。
繊細で美しいだけでなく、
それが“西洋人の心の中にある中国”を意識して
“でたらめで、手がこんでいて、滑稽な”ほどに整えられていることを
まるで目の前に光景が浮かぶかのように鮮やかに描き出す。

その描写の美しさは、耽美主義の系譜のようにも思われるが、
一人称ではないにもかかわらず、
風景も登場人物たちの装いもその細やかな描写の一つ一つが
ヒロインの心情を映し出す鏡の役割を果たしていることに
感嘆せずにはいられない。

内容は一見すると昼メロ調の通俗小説のようではあるが、
学び続けたいと強く願っていたはずの少女が
女が学問を身につけたところでなんになるのかという世間や
愛やお金や様々なものに飲み込まれていく様が痛々しい。


続いて収録されている表題作「中国が愛を知ったころ」は、
1930年代、私の憧れの地の一つである杭州の西湖が舞台の物語だ。
だがしかし、ここで描かれている物語ときたら!
時代の先端をいく自由恋愛を貫くために、
様々な犠牲をはらい苦労をしてきたはずの男女が迎えるこの結末!!


収録作品のトリを飾る「同級生」は
中国で共に過ごした女学生時代の回想シーンを交えながら
移住先のアメリカで同級生と再会する話なのだが、
これがまた作者の人生とオーバーラップするようで
胸がきゅっと痛くなる。

それでもやはりどこまでも一文一文が美しい。
張愛玲の作品を読むのは初めてだったが、
原作はもとよりこの翻訳が素晴らしいことは疑う余地がない。
ありがとう #日本翻訳大賞!!
熱く推薦してくれる方がいなかったらきっと手に取らなかったであろう本なだけに
ことさら出会いがうれしい。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2238 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. タカラ~ム2018-11-01 17:45

    どうも、はじめての海外舞楽vol.4応援読書会です!

    こちらの作品、翻訳家・斉藤真理子さんの推薦本なんですよ!
    ということで、ぜひ掲示板にコメントお願いします!!

    https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no337/index.html?latest=20

  2. かもめ通信2018-11-01 19:37

    舞楽も楽しそうだけど、一応訂正しておくと文学だよねw
    そうそう、リスト確認してびっくりしました。
    これも入っているんですね!
    例年通り、レビューをもってお邪魔すれば良いんですよね?
    後で伺います。
    ちなみに昨夜読み終えたばかりの本もリストに入っていました。
    レビューはまだ1文字も書いていないのですがw

  3. タカラ~ム2018-11-03 22:00

    舞楽⇒文学です!(笑)

    でも、面白いからコメントはそのままにしておきます(笑)

  4. No Image

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