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たけぞう
レビュアー:
東欧系ユダヤ文学ですが、ひとくくりにする功罪を感じます。
先行書評が非常に印象的で、いつか読もうと思っていた一冊です。

みっつの贈物。
あるユダヤ人が息を引き取り、天の法廷で審判に臨みます。正面には天秤がありました。天使が二人入場し、右側のお皿には故人の良心をつかさどる天使が、左側のお皿には誘惑の天使がつきます。これまでの善行と悪行を、天使たちは右と左のお皿に入れていきます。

なんと、天地開闢以来の初めてのことが起こったのです。右と左の重さがぴったりと釣り合ってしまったのです。地獄行きにはならない、でも楽園の門を通過させるわけにもいかない。だからこの魂には、天にも地にも属さない中間をさすらってもらうことにする、というわけです。

魂は嘆きます。どんな拷問であっても、何もないよりはましだ、あんまりじゃないかと。法廷から付き添ってきた助手は不憫に思い、魂にそっと教えます。

それではこうなさい。下界まで下りるのです。低い世界の上空をまわり、人々の生きざま、おこないに細心の注意を払い、それこそ目の覚めるような美しい何かを発見して携えていらっしゃい。楽園の聖人は、美しい贈物が大好きで、こころを動かしますから。

魂はこうしてみっつの美しい物語を探しに行くのでした。見つけてくるものは、ユダヤ人の民族の記憶に根ざした色が濃いのですが、それは読んでいるこちらの深層心理を揺さぶってくるのに十分なものだったのです。

ほかにも、人間の尊厳をかけた小品が並んでいて、訴えかけてくるものがありました。楽しい一冊にはなりにくいかもしれません。受け入れにくい作品もあります。でも短篇集なので、なんとか最後までたどり着けました。わたしは良い旅をしたのだと思います。

イディッシュとは、Jüdisch、ドイツ語でユダヤのという意味です。ユダヤ人の言語ベースは聖書ヘブライ語で、日常用語ではなかったのですが、いまは現代ヘブライ語に改良されてイスラエルの公用語となっています。一方で、それ以前はローカルのユダヤ系民族語が発展しており、イディッシュ語はゲルマン語圏の近くから東欧にかけて広がっている言語とのことです。

ドイツのホロコーストによって、イディッシュ語は急速に廃れ、生き延びた人もいますがと解説にはあります。じわりと存続が危ぶまれる東欧系ユダヤ語。この短篇集のベースであり、読んでいくうちに、ユダヤ人の迫害の歴史が底流にあると感じられました。

ユダヤ文学、シオニズムとは何かの一端に触れられる作品ですよ。教養を深める意味で効果的ですが、それ以上に人間とは何かを意識させられました。なかなかハードです。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1465 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

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