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はるほん
レビュアー:
精神疾患は狂気か。なら薬は正気か。
ヨハネスブルクの天使たちに続けて、宮内氏初の長編。


──薬剤投与により、精神疾患の制御が可能となった未来の地球。
が、原因不明の自殺衝動症が増加している。
それで恋人を失い、開拓地である火星勤務を希望した医師。
物資不足の火星にその症状は見られない。
しかしこの星特有の症候群が発生していた。

「エクソダス症候群」
脱走衝動とも言うべき焦燥や妄執に囚われる。
治療薬は無く、閉鎖病棟に入れるのがせいぜいだ。
やがてエクソダスに罹患してしまった医師は
院内「最古」の患者と対峙する──


話は全然違うのだが、ふと新世紀エヴァンゲリオンを連想した。
「宗教ベースに精神世界を探求したSF」とでも言おうか、
個人的な意見だが、あのアニメは
「宗教」という題材を使いながら、そこに神はいない。
この物語も「出エジプト記」から引用したタイトルでありながら、
神はいない。

エヴァはざっくりいうと、人類を救うか自分を救うかというアニメだ。
↑極めて雑な説明デス
正義とエゴといえば対のようだが、実のトコロ
正義は時にエゴでもある。

医療という現場は、まさにこの「正しさ」が求められる。
だが電気ショックやロボトミーのような施術が「正し」かった時代もある。
そこに神の裁きはない。
選ぶのは人間なのだ。

精神疾患を薬品でコントロールできる世界。
精神疾患は狂気か。
なら薬は正気か。
自分の立つ世界の足元が、揺らぐ心地がする。

エクソダス症候群──脱出衝動。
多分火星から地球へ、という単純な話ではないのだろう。
人間は誰しも、拠り所を求めている。
正しさにも、間違いにも。
それが国家であったり法律であったり、また宗教であったりもする。

──彼らは、ここではないどこかへ行きたいのだ。
自分が決めなくていい「正義」に身をゆだねられる場所へ。
正しいことは決して悪ではない。
だがそう考えると、「正義」という基準値が分からなくなる。
宮内氏の小説はいつもこうして、
意外な題材から思ってもみない方向へ引っ張られる。

ところでエヴァの話に戻るが、
自分は別にあのアニメの信者でもなんでもなく、
むしろイライラしながら見ているのに近い。
キャラたちは世界平和などそっちのけで、
全員が己のエゴで動いているように思えてならない。

だが「正義」がなんたるかを考えると、
あのアニメは案外「正しい」のかもしれない。
医療SF小説でありながら、エゴという正体について考えさせられる。

3冊目ながら、落としどころがいつもニクイぜ宮内氏。
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はるほん
はるほん さん本が好き!1級(書評数:684 件)

歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。

年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。

秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。

2018.8.21

読んで楽しい:6票
参考になる:30票
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