かもめ通信さん
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いわゆる「ナショナリズム」について考えてみたくて、まずは“古典的名著”と言われる本を読んでみた。
ナショナリズムとは、第一義的には、政治的な単位と民族的な単位が一致しなければならないと主張する一つの政治的原理である。との定義から始まる本書は、1983年の刊行以来、「第一級のナショナリズム研究書」と高く評価され、大きな影響を与えてきた“現代の名著”といわれるアーネスト・ゲルナーの著作Nations and Nationalism, (Cornell University Press)の完訳版だ。
奥付を確認すると初版は2000年となっているが、書かれたのは1980年代なので、文中にはユーゴスラビア問題なども出てくるのだが、さほど古くささは感じない。
むしろその分析と実際に起こったあれこれとを比較することもでき、なかなかに興味深くもある。
ナショナリズムの定義が「国家」と「民族」に依存するとなると、そもそも「国家」とはなにか、「民族」とはなにかというところから始めなければならないのは当然か。
「国家」については、マックス・ウェーバーの「国家とは、社会の中で正当な暴力を独占的に所有する機関である」という定義からはじめるにしても、「民族」の方はなかなかに厄介で、それを解き明かそうというわけだ。
ナショナリズムは、「民族と国家との結びつきは運命づけられている」と主張し、「一方が欠けると、他方も不完全なものとになり、悲劇が生じる」と言う。
しかしゲルナーは「国家も民族も偶然の産物であって、普遍的に必然なものではない。」「民族や国家があらゆる時代にあらゆる状況の下で存在するわけではない。」と断言する。
人類の歴史を紐解きながら、国家は明らかに民族の支援なしに現れたし、民族の中には明らかに自分たちの国家の祝福を受けずに現れているものもあると主張するのである。
国家が農耕社会に成立し、産業社会となった現在では国家のない場所はないというのは、まあ誰もが共通認識として持ちうるだろう。
他方、民族を、文化を共有する集団か、お互いに同じ民族であるとおもう意志に基づく集団であるとして、生物学や遺伝学に基づかずに定義するとなると、ここには異を唱える人もいるかもしれない。
そうこれは、偶発的でありながら、現代においては普遍的で規範的に見えるこの民族の概念を説き明かす試みでもあるのだ。
よくよく考えれば、当たり前のことなのかもしれないが、長い人類の歴史から見れば、現在社会を揺るがし続けている(ように見える)「ナショナリズム的な価値観」の歴史はまだまだ浅い。
正直に言えば、この本に書かれていることをあれこれ吸収できたとは言いがたいが、それでも読み終えた今、思うのだ。
人間社会はまだまだ発展途上、人類は直面する様々な問題を、共に乗り越えて、新しい価値観、新しい歴史を築いていけるものだと信じたい、と。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:254
- ISBN:9784000021968
- 発売日:2000年12月01日
- 価格:2520円
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