darklyさん
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怪奇小説の本場イギリスの作家で後に大きな影響を与えた20世紀の作家アーサー・マッケン全集の1冊目。平井呈一氏の訳です。有名な「パンの大神」収録。
アーサー・マッケンの小説は、アンソロジー等で断片的に読むことはありましたが、相当の昔なのでよく憶えていないということもあり、なんとなく思い立って平井呈一さんの訳で読んで見ようと手に取りました。
第1集は五つの話が収められていますが、そのうち初期の代表作の二つについて書きたいと思います。
【パンの大神】
実験台として脳を手術され、人間には見えないパンの大神を見えるようにされ発狂した女性が死ぬ少し前に出産した。その娘は邪悪な存在で、大人になるにつれ周りの男性を次々と破滅に導く。果たしてその正体は?
「八百万の神」として無数の神と共生する日本とは違い、ヤハウェ(あるいはキリスト)を崇める一神教の文化においては神以外はいわゆる蕃神であり、邪悪なものです。そして神が複数いることが普通の日本人の感覚と違い、人間にとってその蕃神は情け容赦ない存在です。ラヴクラフトをはじめ後世に大きな影響を与えた本作品の特徴は次の二点であると思われます。
一つ目は「ほのめかし」です。人間が見たことのないものや、経験したことがないことをあえて詳述せず、読者の想像(普通想像できないが)させることによって恐怖の効果を高める手法です。前述のとおりラヴクラフトの小説にも多々そういった話がありますが、例えば江戸川乱歩の「鏡地獄」もそのような手法の一例かもしれません。
二つ目は、一つ目と関連がありますが、「宇宙的恐怖」です。宇宙あるいは神といった大きな存在について人間が五感で感じたり、想像できることは限られているという前提のもので「人知を超えたモノへの恐怖」によって哀れな登場人物は破滅していきます。
【白魔】
いわゆる社会的な犯罪者は本来の罪人ではなく、本来の罪人とは妖法(オカルト)を使う者であるという主張を持った登場人物が差し出した一つの手記。それには手記の筆者が幼き頃に聞いた不思議な話や自身が体験したことが綴られていた。
日本でも日本昔話を始めとして地域の不思議な話などを子供の頃に聞いたことは誰しもあると思いますが、アニミズムが基本にあるというか、恐ろしい話も沢山あるにしろ、そこには善と悪が完全に切り分けられない混然としたすべては自然の中に含まれているという世界観がベースとなっているものが多いような気がします。
一方、イギリス等の西洋においては、前述の通り、神以外は邪悪なものであり、それを信じたり、それの元で行う秘術はオカルトとして忌避されます。
この手記は、ドルイド教のような古代宗教の教えや様々な昔話を乳母から秘密の話として聞いてきた筆者が、これまたドルイド教のものと思われるストーンヘンジのような遺跡のようなものを実際に発見したり、現実か白昼夢か分からないような経験をすることが書かれており、それが実際になんであったのことについては分からないまま突然終わります。
ここでも、いわゆる「ほのめかし」の効果があり、作品全体を通じて醸し出される甘美な妖しさやエロスが独特の読後感を生みます。
第1集は五つの話が収められていますが、そのうち初期の代表作の二つについて書きたいと思います。
【パンの大神】
実験台として脳を手術され、人間には見えないパンの大神を見えるようにされ発狂した女性が死ぬ少し前に出産した。その娘は邪悪な存在で、大人になるにつれ周りの男性を次々と破滅に導く。果たしてその正体は?
「八百万の神」として無数の神と共生する日本とは違い、ヤハウェ(あるいはキリスト)を崇める一神教の文化においては神以外はいわゆる蕃神であり、邪悪なものです。そして神が複数いることが普通の日本人の感覚と違い、人間にとってその蕃神は情け容赦ない存在です。ラヴクラフトをはじめ後世に大きな影響を与えた本作品の特徴は次の二点であると思われます。
一つ目は「ほのめかし」です。人間が見たことのないものや、経験したことがないことをあえて詳述せず、読者の想像(普通想像できないが)させることによって恐怖の効果を高める手法です。前述のとおりラヴクラフトの小説にも多々そういった話がありますが、例えば江戸川乱歩の「鏡地獄」もそのような手法の一例かもしれません。
二つ目は、一つ目と関連がありますが、「宇宙的恐怖」です。宇宙あるいは神といった大きな存在について人間が五感で感じたり、想像できることは限られているという前提のもので「人知を超えたモノへの恐怖」によって哀れな登場人物は破滅していきます。
【白魔】
いわゆる社会的な犯罪者は本来の罪人ではなく、本来の罪人とは妖法(オカルト)を使う者であるという主張を持った登場人物が差し出した一つの手記。それには手記の筆者が幼き頃に聞いた不思議な話や自身が体験したことが綴られていた。
日本でも日本昔話を始めとして地域の不思議な話などを子供の頃に聞いたことは誰しもあると思いますが、アニミズムが基本にあるというか、恐ろしい話も沢山あるにしろ、そこには善と悪が完全に切り分けられない混然としたすべては自然の中に含まれているという世界観がベースとなっているものが多いような気がします。
一方、イギリス等の西洋においては、前述の通り、神以外は邪悪なものであり、それを信じたり、それの元で行う秘術はオカルトとして忌避されます。
この手記は、ドルイド教のような古代宗教の教えや様々な昔話を乳母から秘密の話として聞いてきた筆者が、これまたドルイド教のものと思われるストーンヘンジのような遺跡のようなものを実際に発見したり、現実か白昼夢か分からないような経験をすることが書かれており、それが実際になんであったのことについては分からないまま突然終わります。
ここでも、いわゆる「ほのめかし」の効果があり、作品全体を通じて醸し出される甘美な妖しさやエロスが独特の読後感を生みます。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:沖積舎
- ページ数:342
- ISBN:9784806066774
- 発売日:2014年08月25日
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