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efさん
ef
レビュアー:
これは奇跡と認めなければならないのだろうか?
 みなさんのレビューを拝見して興味を持ち、読んでみました。

 著者は、1912年にノーベル生理学・医学賞を受賞した医師です。
 合理主義的な考えの持ち主だったことが本書からうかがえるのですが、彼は1903年にルルドを訪れ、その際瀕死の重病人がたちまちのうちに回復したのを見たと言うのです。
 その件を小説仕立てで書き残したのが、本書の中核をなす『ルルドの旅』なのでした。

 ルルドの泉の話はご存知でしょうか?
 1858年に、ベルナデットという少女が18回に渡り聖母マリアが出現するのを見た上、マリアから洞窟内の泉の存在を示され、病人がその泉で沐浴したり、あるいは単に祈祷するだけで病気が平癒する者がいるという話です。

 著者はこの奇跡とも思える話を検証するためにルルドに赴いたところ、それを目撃してしまったらしいのです。
 自分が診断した病人がたちまち回復してしまったことをどう判断すれば良いのか分からなくなったのでしょう。
 それでも事実は事実として無視することはできず、小説の形で書き残したわけです。
 しかし、生前にそれを発表することはできず、死後、遺族によって公にされたのが『ルルドへの旅』というわけです。

 『ルルドへの旅』自体は短い文章ですので、それだけでは文庫本一冊を埋めることはできず、本書にはその他に編者による解題と、著者の伝記的紹介、ルルド伝説の紹介が併録されています。
 また、『ルルドへの旅』は原文はフランス語なのですが、本書は英語からの重訳になっています。
 訳者は、フランス語の原典にも当たったそうなのですが、原典は相当に硬い文章だということで、それよりも英訳文の方がはるかに読みやすかったことから重訳したということですが、まあ、英訳の方は相当に潤色した訳と思われ、それで良いのかねという若干のとまどいは感じているのですが。

 『ルルドへの旅』自体は、奇跡とも思える事態を目撃して戸惑っている医師の短い話であり、巻末解説で主張するほどに感動的な物語とは私には思えませんでした。
 むしろ、同じルルドの奇跡を扱った作品ならば、ユイスマンスの『ルルドの群衆』の方が文学的には遥かに上であり、こちらをお勧めしたいところです。

 本書の肝は、かなり合理的な精神を持ち、後にノーベル賞まで受賞した医師が、自分の目で奇跡を見てしまったという点にあるわけですが、それを奇跡だと主張することもできず、もちろん事実であるとして残すこともできなかったため、短い小説仕立てとして書き残すしか無かったという戸惑いの心情を読み取るところがコアな部分なのだろうと感じました。


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ef
ef さん本が好き!1級(書評数:4921 件)

幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!

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