攻めるのは趙の軍勢約1万8000人。
これに対して、防御側の梁城の兵士はたかだか1500人です。
戦力的にはどうにもならないレベル。
どうにもならないので、梁城の君主は墨家に援助を求めたのですが、やって来たのは革離ただ一人だったのです。
さて、墨家ですが、その始祖である墨子の思想は徹底した博愛主義、非戦主義だとされています。
戦は決して認めない。
ただし、攻め入られた側が防御の戦いをすることは認めており、墨家は攻め入られた側に加担し、攻めてくる者に痛撃を加え撤退させ、他国を攻めることの愚を身をもって知らしめるというものだったとか。
そのため、防御に重点を置いた優れた戦術、兵器、築城術などが研究され、また戦闘集団をも抱えた思想集団だったということです。
しかし、墨子の死後、その跡を継いだ者たちの間には考え方の相違が生まれてきたようです。
ある者は、墨子の思想に忠実たらんとし、他者は、世の中から戦をなくすためには意のままになる国を傀儡として操るべしという考え方をしたとか。
現在の墨家の指導者である田襄子は後者の考え方に立ち、未だ力の無い秦に肩入れして秦の力を増し、秦により天下泰平を実現しようと考えているのでした。
本作の主人公である革離はそのような考え方には同調せず、あくまでも攻め入られる小国をこそ助けるべきであると考えていました。
そしてこの考え方の相違も一因となり、梁城からの救援依頼に対して、そんなものは放っておけば良いと考える田襄子に対し革離が異を唱えたことから、革離がたった一人で梁城に派遣されることになったのでした。
さて、この圧倒的に不利な状況で革離はどうしようというのでしょうか?
革離は、勝つことはできないが、生き延びることならできると君主を説き伏せ、これを実現するために絶対的指揮権を要求します。
目の前に迫った大軍を前にしては、君主にはもはや革離の要求を呑む以外に道はありませんでした。
革離は、域内の農民たちすべてを糾合し、組織づくりから築城まで一手に引き受け、墨家の教えによる堅牢な防御陣を築いていきます。
本書では、その後の革離の防御戦が中心に描かれるのですが、大変興味深い内容でした。
もうちょっと読みたいと思う位に短い作品だったことが逆に残念に思える程です。
そしてまた、歴史のある時点でいきなり消えてしまった墨家の謎についても触れられています。
著者の作品は、以前レビューした『後宮小説』 に続いて2作目になりますが、『後宮小説』をレビューした際、本書をお勧めいただいたので読んでみました。
なかなか面白い本でした。
ご紹介いただきありがとうございました。
読了時間メーター
□□ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK)




幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!
この書評へのコメント
- Kuniaki Akimoto2018-09-21 06:12
酒見賢一さんの作品はデビュー作の「後宮小説」が余りにも有名になってしまった部分がありますが、その他の「墨攻」や「ピュタゴラスの旅」等の中編や短編集も面白いですね。
僕個人は「語り部の事情」が読者の意表を突いてて好きでした。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Tetsu Okamoto2018-09-21 07:56
コミカライズされています。作画は森秀樹、脚本は久保田千太郎。「ビッグコミック」(小学館)において1992年から1996年にかけて連載されました。戦国時代初期を舞台とした原作と異なり、秦が天下統一に動いた戦国時代末期・秦代初期を舞台としていますし、梁城も独立国ではなく、燕国の一城扱いです。また、梁城の落城で終わった原作と違い、途中からオリジナルストーリーとなり、原作の末に書かれたその後の墨家の運命を題材として、話が膨らんでいます。鼠編・邯鄲編と続く。
第40回(平成6年度)小学館漫画賞受賞。
2006年に日中合作で映画化されています。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - そうきゅうどう2018-09-21 10:10
原作は読んでおらず、コミックスもちょっと手に取った程度にしか知らないですが、映画は見ました。原作とコミックスはどうだったのか分かりませんが、映画は予告編では「少数が知恵と工夫で多数に勝利する物語」のように見せながら、実際には一度目の勝利の後に起こるドロドロした政治劇によって革離とその支持者が城内から排除されていく過程が、墨家が消滅していく過程と二重写しになっていて、戦のシーンよりそっちの部分に非常に見応えがありました。
YouTubeに映画の冒頭部分の動画がアップされています(タイトルは予告編となっていますが予告編ではありません)。
https://www.youtube.com/watch?v=9ZDV1R-rfnkクリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:新潮社
- ページ数:170
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