darklyさん
レビュアー:
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奇想天外なファンタジーの形をとったイギリスに対する諫言のようだ。
たまたま本屋でジャケットを気に入り読み始めたアイアマンガー3部作の最後の作品です。舞台はロンドン。アイアマンガー一族は「LUNGDON」と呼び「肺都」と訳されています。
「穢れの町」が焼かれ、行き場を失ったアイアマンガー一族は闇に覆われたロンドンに逃げ込み、ある屋敷に隠れ住んでいる。アイアマンガー一族を排除しようとするロンドン政府、自分の信念とアイアマンガーとしてのアイデンティティの間で悩むクロッド。そして角灯団(カンテラ団)という少年たちの集団の力を借りて、なんとか生き残ろうと知力・体力の限りを尽くすルーシー・ペナント。
物語は、生き残りをかけて政府転覆を目論むアイアマンガー一族を軸に、反アイアマンガー、クロッドを交えて終焉を迎える。
純粋なファンタジーでありながら社会派の小説にも思えます。イギリスは私の勝手なイメージではかなり閉鎖的で不寛容な国と思えます。移民問題に端を発したEU離脱が最も象徴的ですが、昔からサッカーにしろラグビーにしろイギリス代表として出場するのではなく、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドと4つの代表チームで出場します。なので戦力が分散しイギリスとして損をしています。サッカーで言えば、ウェールズのライアン・ギグスもベイルも宝の持ち腐れです(でした)。
この物語で言えば、ロンドンはアイアマンガー一族を差別・排除しようとするし、またアイアマンガー一族も穢れの町の人々のことを差別しています。このような偏見が疑心暗鬼を生みお互いに幸せな結果を生まないという構造はどこの社会でも見られることかもしれません。アイアマンガー一族は移民のメタファーかもしれません。移民は厄災をもたらす元凶だという言説はいつの時代もまことしやかに囁かれます。
クロッドは、第2部「穢れの町」において、アイアマンガー一族の欺瞞に対して対決することを決意します。しかし、「肺都」において、ロンドンの少女の裏切りに直面し、彼の決意も揺らぎます。ここにも他人の言動や自分のちょっとした経験によって「白」か「黒」かを簡単に決めてしまう人間の弱さが見て取れます。結局クロッドは正しい行動をとるのではありますが。
結局私は、この物語の主人公はルーシー・ペナントだと思うのです。彼女は決して美しいとは言えないし、お淑やかな女性ではありません。しかし、彼女は常に自分の頭で考え、信念を持ち、クロッドの浮気が疑われる伝聞にも動じません。逆にクロッドの許嫁のピンは常に自分への愛を疑います。
そして、なんといっても、汚くても、苦しくても、生き抜こうとするバイタリティ。物語は人々を勇気づける効用があると思いますが、作者はその思いをルーシーに託しているのではないでしょうか。
物語は最後、それぞれの立場の人間が共存する社会となったところで終わります。そして常に闇に覆われたロンドンには太陽が現れます。それは正しい社会となったロンドンを祝福するかのようです。
作者のエドワード・ケアリーさんはイギリス出身でアメリカ在住の作家です。彼はEU離脱を決めた現在のイギリスをどのように見ているのでしょうか。
「穢れの町」が焼かれ、行き場を失ったアイアマンガー一族は闇に覆われたロンドンに逃げ込み、ある屋敷に隠れ住んでいる。アイアマンガー一族を排除しようとするロンドン政府、自分の信念とアイアマンガーとしてのアイデンティティの間で悩むクロッド。そして角灯団(カンテラ団)という少年たちの集団の力を借りて、なんとか生き残ろうと知力・体力の限りを尽くすルーシー・ペナント。
物語は、生き残りをかけて政府転覆を目論むアイアマンガー一族を軸に、反アイアマンガー、クロッドを交えて終焉を迎える。
純粋なファンタジーでありながら社会派の小説にも思えます。イギリスは私の勝手なイメージではかなり閉鎖的で不寛容な国と思えます。移民問題に端を発したEU離脱が最も象徴的ですが、昔からサッカーにしろラグビーにしろイギリス代表として出場するのではなく、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドと4つの代表チームで出場します。なので戦力が分散しイギリスとして損をしています。サッカーで言えば、ウェールズのライアン・ギグスもベイルも宝の持ち腐れです(でした)。
この物語で言えば、ロンドンはアイアマンガー一族を差別・排除しようとするし、またアイアマンガー一族も穢れの町の人々のことを差別しています。このような偏見が疑心暗鬼を生みお互いに幸せな結果を生まないという構造はどこの社会でも見られることかもしれません。アイアマンガー一族は移民のメタファーかもしれません。移民は厄災をもたらす元凶だという言説はいつの時代もまことしやかに囁かれます。
クロッドは、第2部「穢れの町」において、アイアマンガー一族の欺瞞に対して対決することを決意します。しかし、「肺都」において、ロンドンの少女の裏切りに直面し、彼の決意も揺らぎます。ここにも他人の言動や自分のちょっとした経験によって「白」か「黒」かを簡単に決めてしまう人間の弱さが見て取れます。結局クロッドは正しい行動をとるのではありますが。
結局私は、この物語の主人公はルーシー・ペナントだと思うのです。彼女は決して美しいとは言えないし、お淑やかな女性ではありません。しかし、彼女は常に自分の頭で考え、信念を持ち、クロッドの浮気が疑われる伝聞にも動じません。逆にクロッドの許嫁のピンは常に自分への愛を疑います。
そして、なんといっても、汚くても、苦しくても、生き抜こうとするバイタリティ。物語は人々を勇気づける効用があると思いますが、作者はその思いをルーシーに託しているのではないでしょうか。
物語は最後、それぞれの立場の人間が共存する社会となったところで終わります。そして常に闇に覆われたロンドンには太陽が現れます。それは正しい社会となったロンドンを祝福するかのようです。
作者のエドワード・ケアリーさんはイギリス出身でアメリカ在住の作家です。彼はEU離脱を決めた現在のイギリスをどのように見ているのでしょうか。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
この書評へのコメント
- ランピアン2018-04-05 07:09
英国の不寛容さの象徴として、サッカーにおけるカントリー別出場を挙げていらっしゃるのは非常に鋭い着眼だと思います。
サッカーは門外漢ですが、ご指摘のとおり、英国サッカーはこの方式で損をしているはずです。しかし一方、英国というネーションではなくイングランド、スコットランドといったカントリーにこだわることは、現代ではローカリズム、地域主義としてむしろ称賛される傾向があるわけです。
日本でも「国家から地域へ」という掛け声が盛んで、ナショナリズムは悪、ローカリズムは善という単純な図式で語られがちです。なので、EU離脱を報じる日本のメディアの論調も、どっちつかずの歯切れの悪いものが目立ちました。
しかし、そのように地域にこだわるローカリズムは、考えようによってはネーション単位で考えるナショナリズムよりも不寛容で排他的だともいえるわけです。どこに視点を置くかで評価が大きく変わる。国家と地域をめぐるアポリアを象徴している問題だと思います。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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