Yasuhiroさん
レビュアー:
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「六番目の小夜子」の関根春の父、元名判事の関根多佳男を主人公とした短編ミステリ連作集。過去の名作ミステリへのオマージュともなっているが、イマイチしっくりこなかった。
久々の恩田陸さんです、ってこの言い回し使うの何回目だろう(^^;)。以前風竜胆さんにお勧めいただいてブでゲットしてたのですがようやく読了しました。
連作ミステリ短編集で、なかにはショートショートか、と思うほど短くてぶっきらぼうな作品もあるのですが、ほとんどが安楽椅子探偵形式で名作ミステリへのオマージュとなっています。先日紹介した米澤穂信の「米沢穂信と古典部」で、恩田さんと米澤さんが丁々発止のミステリ談義をされておられ、その薀蓄はとどまるところを知らずあれもこれも書きたいとのやり取りは楽しいものがありました。そんな恩田さんですから、こんな短編集ができるのも首肯でき、なかなか鋭い切れ味の作品が続きます。
米澤穂信と比較できてお二人の作風の違いがよくわかるのはかの有名なハリイ・ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」比べでしょう。連鎖推理というジャンルを確立した作品へのオマージュとして、米沢穂信は古典部シリーズで「心あたりのある者は」という短編を書き、陸さんはこの作品集の中で「待合室の冒険」という短編を書いておられます。連鎖推理の見事さでははっきり言って米澤さんのほうに分があると思いますが、語り口の見事さと登場人物のユニークさでは恩田さんのほうもなかなかのもの。
そう、恩田ファンには嬉しいことにこの連作集の主人公は彼女の実質上のデビュー作「六番目の小夜子」の主要登場人物だった関根春(しゅん、男)の父で、今は引退したかつての名判事関根多佳男を主人公としているのです。
そして春は現役検事として登場、さらには「図書室の海」に出てきた春の妹、夏(なつ)も現役弁護士として登場します。みんな立派に育ったねえ(笑。春は相変わらずひょうひょうとしているにもかかわらず鋭く、夏は気が強い。
この三人が繰り広げる安楽椅子探偵ぶりを楽しむのがファンとしての趣向でしょう。陸さんらしい蘊蓄も満載。古典ミステリへの造詣はもちろんのこと、「ニューメキシコの月」という作品では写真家アンセル・アダムスの「エルナンデスの月の出」という名作についても言及しています。その写真が大量殺人犯で死刑囚の男の無言の挑戦となっている本作は、その結論の意外性においても、この短編集の中でも出色の出来ではないかと思います。下に掲げた写真とキャプションだけで結末を連想できる人は凄いです!
とここまで読んでいただくと素晴らしい作品集なのかな、と思われるかもしれません。事実このサイトでのレビューを見ますと風竜胆師匠、塩味ビッテン提督、はなとゆめ+猫の本棚さんという並み居る上級レビュアーの皆さんが絶賛。
でも正直なところ、私はベックさん同様「しっくりこない」派。どうもこの関根多佳男という人物の人物造形が浅くてしっくりこない。安楽椅子探偵用に即席で仕上げてみました、的な。あるいは牽強付会の結論にたどり着くための方便を語ってもらうためだけに作りました、的な。春の方は「六番目の小夜子」での活躍があって今がある的でいいですけどね。
それにミステリにそれほどの親和性のない私はオマージュと言われてもしっくりこない。表題作の「象と耳鳴り」、私の好きな中原中也の詩をタイトルにした「海にゐるのは人魚ではない」なんてまあ牽強付会もいいとこでつまらない(をい。
皆さんに評判のいい「往復書簡」も強引過ぎないか?
せっかくの書下ろし「魔術師」も目の付け所はいいのに投げっぱなしジャーマン的な中途半端な作品。
と言うわけでせっかく関根春のお父さんを引っ張り出してくれた陸さんには悪いけどイマイチな感じでした。もちろんミステリファンはファンならではの楽しみがあると思います。
そう言えば夏さん、誰に鍵を渡したんだろう、そっちの方が気になったりして。。。
連作ミステリ短編集で、なかにはショートショートか、と思うほど短くてぶっきらぼうな作品もあるのですが、ほとんどが安楽椅子探偵形式で名作ミステリへのオマージュとなっています。先日紹介した米澤穂信の「米沢穂信と古典部」で、恩田さんと米澤さんが丁々発止のミステリ談義をされておられ、その薀蓄はとどまるところを知らずあれもこれも書きたいとのやり取りは楽しいものがありました。そんな恩田さんですから、こんな短編集ができるのも首肯でき、なかなか鋭い切れ味の作品が続きます。
米澤穂信と比較できてお二人の作風の違いがよくわかるのはかの有名なハリイ・ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」比べでしょう。連鎖推理というジャンルを確立した作品へのオマージュとして、米沢穂信は古典部シリーズで「心あたりのある者は」という短編を書き、陸さんはこの作品集の中で「待合室の冒険」という短編を書いておられます。連鎖推理の見事さでははっきり言って米澤さんのほうに分があると思いますが、語り口の見事さと登場人物のユニークさでは恩田さんのほうもなかなかのもの。
そう、恩田ファンには嬉しいことにこの連作集の主人公は彼女の実質上のデビュー作「六番目の小夜子」の主要登場人物だった関根春(しゅん、男)の父で、今は引退したかつての名判事関根多佳男を主人公としているのです。
そして春は現役検事として登場、さらには「図書室の海」に出てきた春の妹、夏(なつ)も現役弁護士として登場します。みんな立派に育ったねえ(笑。春は相変わらずひょうひょうとしているにもかかわらず鋭く、夏は気が強い。
この三人が繰り広げる安楽椅子探偵ぶりを楽しむのがファンとしての趣向でしょう。陸さんらしい蘊蓄も満載。古典ミステリへの造詣はもちろんのこと、「ニューメキシコの月」という作品では写真家アンセル・アダムスの「エルナンデスの月の出」という名作についても言及しています。その写真が大量殺人犯で死刑囚の男の無言の挑戦となっている本作は、その結論の意外性においても、この短編集の中でも出色の出来ではないかと思います。下に掲げた写真とキャプションだけで結末を連想できる人は凄いです!
とここまで読んでいただくと素晴らしい作品集なのかな、と思われるかもしれません。事実このサイトでのレビューを見ますと風竜胆師匠、塩味ビッテン提督、はなとゆめ+猫の本棚さんという並み居る上級レビュアーの皆さんが絶賛。
でも正直なところ、私はベックさん同様「しっくりこない」派。どうもこの関根多佳男という人物の人物造形が浅くてしっくりこない。安楽椅子探偵用に即席で仕上げてみました、的な。あるいは牽強付会の結論にたどり着くための方便を語ってもらうためだけに作りました、的な。春の方は「六番目の小夜子」での活躍があって今がある的でいいですけどね。
それにミステリにそれほどの親和性のない私はオマージュと言われてもしっくりこない。表題作の「象と耳鳴り」、私の好きな中原中也の詩をタイトルにした「海にゐるのは人魚ではない」なんてまあ牽強付会もいいとこでつまらない(をい。
皆さんに評判のいい「往復書簡」も強引過ぎないか?
せっかくの書下ろし「魔術師」も目の付け所はいいのに投げっぱなしジャーマン的な中途半端な作品。
と言うわけでせっかく関根春のお父さんを引っ張り出してくれた陸さんには悪いけどイマイチな感じでした。もちろんミステリファンはファンならではの楽しみがあると思います。
そう言えば夏さん、誰に鍵を渡したんだろう、そっちの方が気になったりして。。。
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馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
この書評へのコメント
- 塩味ビッテン2017-12-04 16:56
米澤さんも恩田さんも、そしてYasuhiroさんもミステリーを読みこんでいらっしゃるので、オマージュと言う名の蘊蓄たらたらが鼻につくのではないかしら?
短編でミステリを描くのは仕掛けが単純にならざるを得ず、どうしても結論を急いじゃうので構成に無理があって・・・・名作に仕上げるのは難しいと思いますよ。と言うところを差し引いて甘い評価になってしまいました。
確かにYasuhiroさんのおっしゃる通り「強引」「やりっぱなし」感はありますね。ここを春君や夏ちゃんのお馴染キャラクターでごまかそうとしている所に工夫が見られると思います(見事にごまかされちゃいました)。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- ページ数:318
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