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sawady51さん
sawady51
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遺伝子ではない98%にヒトの秘密が隠されていた!

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

あなたの体で無駄な部分はありますか?必要のないのはお腹についた脂肪くらいで、他のどの部位もないと困るところばかり。髪の毛だって、「日除け」効果があり、なくなるとちょっと寒いでしょう。ところが遺伝子を見てみるとゲノムの98%は「遺伝子」の情報を持たない領域であることがわかってきました。ではこの98%はなんなのか?紐解いていきましょう。

顕性(優性)の法則
常に丸いタネをつけるエンドウ(丸系統)と、常に表面がシワになるタネをつけるエンドウ(シワ系統)を交配すると、次の世代(雑種第1代、F1)はすべて丸いタネをつけるエンドウができます。このF1で現れる形質を顕性(優性)形質といいます。ここで早くも脱線しますが、優性は「優れている」という意味ではなく、外(表面)に「現れる」という意味で使います。優劣とはまったく関係ありません。誤解を避けるため、私の所属する日本遺伝学会では優性の代わりに「顕性」を使うことを提案しています。

この顕性(優性)と反対に表面に現れない形質を決める遺伝子は「潜性」と呼びます。教科書では「劣性」と書いてありますが、これも同じ理由(劣っているわけではない)からこう呼びます。

ヒトゲノム計画
ヒトゲノム計画は、ゆっくりとしたペースで始まりました。ところが、ゲノムの塩基配列を決める技術の進歩に加え、ヒトゲノム計画の結果明らかになるヒトの遺伝子の情報が、薬の開発(創薬)、がんや生活習慣病などの遺伝子診断に応用できることが分かると、医療や産業分野での期待が高まりました。途中から民間企業も多数参入し、研究開発投資が増え、塩基配列の解読スピードが一気に加速しました。当時私はアメリカに留学していたため、実体験としてこの一連の出来事を記憶しています。

ヒトゲノム計画が始まった頃、著者はロシュ分子生物学研究所に勤務していた。アメリカ政府が本腰を入れてヒトゲノムプロジェクトに力を入れるなか、この波に乗り遅れないようカルフォルニアに新たなゲノムの研究所を作るため大規模なリストラにあうことに。塩基配列決定技術の進歩により、予定よりもだいぶ早く2000年には大まかな塩基配列が決定。さらにその3年後にはヒトゲノムプロジェクトは完了し、約30億塩基対、2万2000個の遺伝子を見つけ、ヒトゲノム時代の幕開けとなる。

ゲノムを支える非コードDNA領域
かくして、ゴミ箱に入れてしまった非コードDNA領域ですが、普通に考えてそれでいいわけがありません。ヒトのゲノムは98%が非コード領域であり、ここがゲノムの本体と言っても言い過ぎではないでしょう。ということは、非コードDNA領域がなんらかの機能を持っていると考えるのが普通です。では、その機能とはいったいなんなのでしょうか。確実に存在すると分かっている機能は、他の2%のコード領域に存在する遺伝子を維持することです。「遺伝子の維持」というのはつまり、DNAの複製や分配、修復、タンパク質を作るための発現の調節に関わる働きです。

ヒトゲノムプロジェクトはひとまず完了したことになっていますが、実は繰り返し配列が多い非コードDNA領域は正確に読めていない。それでも「ゲノムの解読は完了した」と言っているのは「非コードDNA領域には大した機能はないだろう」という推測があったから。つまり、非コードDNA領域は意味のないものとして一度ゴミ箱に捨てられてしまったものなのです。非コードDNA領域を酵母で見てみると、酵母のゲノムサイズは1200万塩基対。そこに約6000個の遺伝子が含まれている。非コードDNA領域は全体でおよそ400万塩基対。これはヒトゲノムの30億塩基対に比べるとかなり少ないですが、基本的な機能は似通っています。非コードDNA領域が当然持つと予測される遺伝子の転写、複製、分配する機能は完全に共通。そこから非コードDNA領域の機能が見えてきます。

オスの三毛猫がほとんど存在しない理由
さて、X染色体の不活化の代表例として有名なのが、三毛猫です。白をベースに黒と赤茶(オレンジ)の3色の三毛猫は、基本すべてメスだということをご存知の方は多いかもしれません。三毛猫がオスだろうがメスだろうがどうでもいいではないか、という人もいると思いますが、じつはそうでもありません。置物の招き猫はだいたい三毛猫で、縁起物でもあります(ときどき金色のものもありますが)。その中でもオスの三毛猫は滅多に誕生しないので(3万分の1の確率)、古くから航海の無事を招く幸運の猫とされています。もしペットとして値段をつけるとしたら家一軒分くらいの価値になる場合もあるそうです。

オスの三毛猫は家一軒分の値段!!これには驚き。俄然三毛猫の性別に興味が湧いてくることでしょう。

DNAの解明されていない98%にヒトの秘密が隠されている。遺伝病やヒトとチンパンジーを分ける要素。人の個性を決定づけるものとは何か。DNAの謎がわかる書籍です。

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sawady51
sawady51 さん本が好き!1級(書評数:3428 件)

1974年生まれ。統合失調症にかかり仕事を退職後3回の転職を経て、現在無職。近所(溝の口)のカフェでの読書が癒しの時間。政治・経済・社会・人文科学・自己啓発書等を雑食的に読んでおります。

■2016/ 3/26 登録    
■2016/ 6/22 100冊達成
2017/ 6/16 プロフィール画像飽きたので自画像に変えました。
■2017/ 7/26 500冊達成!
■2018/11/16 1,000冊達成!
■2019/ 3/26 登録から3周年になりました。これからも宜しく!
■2019/ 6/ 4 1,200冊達成!
■2019/12/23 1,400冊達成!
■2020/7/6 1,600冊達成!
■2020/10/16 1,700冊達成!
■2021/5/6 1,900冊達成!
■2021/8/16 2,000冊達成!
■2022/3/10 2,200冊達成!
■2022/9/25 2,400冊達成!
■2024/5/21 3,000冊達成!

ブログもやってます。興味のある方は下記のサイトへどうぞ!
『51Blog』http://sawady51.com/

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この書評へのコメント

  1. Yasuhiro2017-12-04 10:54

    イントロンは本当にまだまだこれからの領域ですね、楽しく読ませていただきました。Sawady51さんは殆どノンフィクションしかお読みにならないようですので興味がないかもしれませんが、グレッグ・ベアの「ブラッドミュージック」はこの領域をテーマにした当時画期的なSFでした。もし興味があればご一読のほどを。

  2. sawady512017-12-05 06:21

    SFですか。この領域に手を出してしまうと、また積読本が増えてしまいそうですが、せっかくご紹介いただいたので、読んでみようと思います。

  3. No Image

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