かもめ通信さん
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「君の名は?」……ゲド戦記レビュー第2弾!図らずもル・グウィン追悼読書となってしまいはしたけれど、ただいま1人ル・グウィン祭開催中。

カルガド帝国のアチュアンの墓所では大巫女が死ぬと、
周辺の町村々から同じ日の夜に生まれた女の子を探し出す。
見いだされた少女は5歳になると親元から引き取られ
生まれたときにつけられた名を失い
アルハ(喰らわれしもの)と呼ばれることになる。
大巫女の生まれ変わりとして特別の教育を受け
生涯、地底の神「名なき者たち」に仕えるのだ。
かつてテナーと呼ばれていたその娘もその名を失って久しく、
15歳となった今では母の顔さえすっかり忘れて
アチュアンの墓所唯一絶対の大巫女として
一切の権限を手中に収めているはずだった。
だがしかし実際には
神聖であるはずの場所もまた権力闘争とは無縁ではなかった。
人々の信仰は薄れ
権力者もまた神をあがめるよりも自身が神になりたがっているかのようだった。
アルハは日々のつとめにおわれながらも孤立を深め
夜ごと墓所の地下に広がる迷宮を探索し、
いつしか地下こそ自分の場所であると考えるようになっていた。
そんなある日、
他の侵入が許されない神聖な場所に
一人の男が入り込んでいるのを見つける。
顔に大きな傷があり
一見して肌の色が違う他国人とわかるその男は、
杖を使って明かりをともし、
闇に包まれた地下の迷宮を照らし出した。
それはまぎれもなく幾重にも禁を破った許されざる行為であった。
ゲド戦記第二巻『こわれた腕環』の主人公は、
物語の半ばでようやく登場するゲドはなく、
かつてテナーと呼ばれた大巫女アルハだと言ってもいいだろう。
前作『影との戦い』で様々な試練を経て、
大魔法使いへと成長したはずのゲドは、
宝を狙って神聖な場所に侵入し、
地下迷宮でとらわれの身となる異邦人という役どころだ。
つまり作者は、明確な目的をもって侵入を企てた“英雄”ゲドの視点からでなく、
神聖な場所とそこに眠る宝物を守る立場である
墓所の巫女の視点からこの物語を書いたのだ。
アルハの立場に立ってみれば、
ゲドは地下神殿に闖入した無法者以外のなにものでもない。
ある国で英雄とうたわれる男も
別の国では極悪人として非難される立場にある。
当たり前といえば当たり前のことなのに
人は都合良くそうしたことを忘れがちだ。
深い闇の中で、大巫女アルハに話しかけるゲドは、
身も心も闇の者たちにゆだね、
「喰らわれし者」としてからっぽであるはずのアルハの中に、
少女テナーを見いだす。
とはいえ迷宮から脱出するという象徴性を帯びたこの物語は、
力ある男が美しい娘を救い出すという英雄譚ではなく、
こわれた腕環が一つになるように
テナーとゲドが力を合わせてことを成し遂げる物語だ。
そしてまたその先には幸せな結末が約束されているわけでもない。
なぜなら自分の名を取り戻したテナーには
その名が示すことになる自分自身を作り上げるという
もっとも困難な仕事が待ち受けているのだから。
周辺の町村々から同じ日の夜に生まれた女の子を探し出す。
見いだされた少女は5歳になると親元から引き取られ
生まれたときにつけられた名を失い
アルハ(喰らわれしもの)と呼ばれることになる。
大巫女の生まれ変わりとして特別の教育を受け
生涯、地底の神「名なき者たち」に仕えるのだ。
かつてテナーと呼ばれていたその娘もその名を失って久しく、
15歳となった今では母の顔さえすっかり忘れて
アチュアンの墓所唯一絶対の大巫女として
一切の権限を手中に収めているはずだった。
だがしかし実際には
神聖であるはずの場所もまた権力闘争とは無縁ではなかった。
人々の信仰は薄れ
権力者もまた神をあがめるよりも自身が神になりたがっているかのようだった。
アルハは日々のつとめにおわれながらも孤立を深め
夜ごと墓所の地下に広がる迷宮を探索し、
いつしか地下こそ自分の場所であると考えるようになっていた。
そんなある日、
他の侵入が許されない神聖な場所に
一人の男が入り込んでいるのを見つける。
顔に大きな傷があり
一見して肌の色が違う他国人とわかるその男は、
杖を使って明かりをともし、
闇に包まれた地下の迷宮を照らし出した。
それはまぎれもなく幾重にも禁を破った許されざる行為であった。
ゲド戦記第二巻『こわれた腕環』の主人公は、
物語の半ばでようやく登場するゲドはなく、
かつてテナーと呼ばれた大巫女アルハだと言ってもいいだろう。
前作『影との戦い』で様々な試練を経て、
大魔法使いへと成長したはずのゲドは、
宝を狙って神聖な場所に侵入し、
地下迷宮でとらわれの身となる異邦人という役どころだ。
つまり作者は、明確な目的をもって侵入を企てた“英雄”ゲドの視点からでなく、
神聖な場所とそこに眠る宝物を守る立場である
墓所の巫女の視点からこの物語を書いたのだ。
アルハの立場に立ってみれば、
ゲドは地下神殿に闖入した無法者以外のなにものでもない。
ある国で英雄とうたわれる男も
別の国では極悪人として非難される立場にある。
当たり前といえば当たり前のことなのに
人は都合良くそうしたことを忘れがちだ。
深い闇の中で、大巫女アルハに話しかけるゲドは、
身も心も闇の者たちにゆだね、
「喰らわれし者」としてからっぽであるはずのアルハの中に、
少女テナーを見いだす。
とはいえ迷宮から脱出するという象徴性を帯びたこの物語は、
力ある男が美しい娘を救い出すという英雄譚ではなく、
こわれた腕環が一つになるように
テナーとゲドが力を合わせてことを成し遂げる物語だ。
そしてまたその先には幸せな結末が約束されているわけでもない。
なぜなら自分の名を取り戻したテナーには
その名が示すことになる自分自身を作り上げるという
もっとも困難な仕事が待ち受けているのだから。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:243
- ISBN:9784000280723
- 発売日:2006年04月07日
- 価格:1050円
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