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Wings to fly
レビュアー:
与えられた場所で、与えられた人生を毅然と生き抜いた女性の勇気。
1848年、西アフリカでエクバドという国が隣国に攻め込まれ滅亡した。ひとりの王女を除いて王族は皆殺しになり、その王女も儀式の生贄として二年後に殺されるはずだったが、イギリス海軍士官に救われる。本書は「黒人の王から白人の王への贈り物」としてイギリスへ渡った王女の人生を追ったノンフィクションである。

著者は、古書店の目録の中にこの王女に関わる手紙一式を見つけた。劇的な出来事が事実かどうか確かめるうちに、王女の救出に触れた本を見つけ、彼女の肖像画に出会う。ヴィクトリア朝のドレスを着た少女の顔には、アフリカ部族の王家の印が彫りこまれていた。

ドレスと部族の印が象徴するものの隔たりは途方もなく遠い。しかし、サラ・フォーブス・ボネッタはその溝を飛び越えざるを得なかった。ヴィクトリア女王は、サラの聡明さに感心して生涯の庇護を与える。家族の一員として受け入れてくれる家庭を探し、経済的支援と教育、女王の庇護者という社会的身分を贈った。可哀そうな子だけれど、幸運だったと人は思うかもしれない。でも、そうなのだろうか。

著者は丹念に事実を繋ぎ合わせてサラの人生を追う。上流社会の生活に馴染み、出会う人に感銘を与えたサラ。しかし、その感銘には「黒人なのに」という上から目線の驚きが混ざってはいなかっただろうか。父と慕った海軍士官は亡くなり、自分が生まれた国の話をしてくれる人もない。年頃になれば、周囲が決めた結婚を迫られる。

疎外感を覚えずに生きられるのは、人の幸福のひとつだと思う。帰れる故郷があること、血のつながった身内や、同胞と思える人々がいること。サラにはそれが全部なかった。何よりも、自分で自分の道を選ぶ自由がなかった。その自由は、19世紀の男性優位社会に生きていた女性は皆が持っていなかったのだけれど。

サラは、思うように生きられないという悲しみだけは、育ての国の自立心ある女性たちと共有したように思う。与えられた場所で与えられた人生を生きるとは、何も考えず流されてゆくこととは違う。望まぬ何かに毅然と立ち向かう、強い心が必要なのだ。その強さは、肌の色や生まれた国とは関係のない、ひとりの人間としての勇気なのだと思う。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. ぱせり2018-06-13 20:23

    「与えられた場所で与えられた人生を生きるとは、何も考えず流されてゆくこととは違う。望まぬ何かに毅然と立ち向かう、強い心が必要なのだ。」
    背中がぴんと伸びるような気がします。そうありたいです。
    サラの人生への最高の献辞ですね!!

  2. Wings to fly2018-06-13 22:04

    ぱせりさん
    ありがとうございます^ ^
    サラの生きた年代って、日本の江戸末期から明治初期なんですね。洋の東西を問わず、この時期に生まれた女性たちは「あなたの幸せのためだから」とか言われて、自分の希望とは違う道を選ばざるを得なかった人がたくさんいたと思います。その中で精一杯の幸せを探したサラは、本当に強い人だと思いました。
    こないだご紹介いただいた本も読みますよー(^^)

  3. ves2018-06-15 10:15

    すてきなレビューをありがとうございます! サラの強さに圧倒されながら訳したことが思いだされます。実在したサラを一人でも多くの人に知ってもらえたらうれしいです^^

  4. Wings to fly2018-06-15 17:42

    vesさま
    コメントありがとうございます!作者マイヤーズさん&翻訳宮坂さんコンビの『ニューヨーク145番通り』がとても良い作品だったので読みました。読んでいるうちに、同時代に生きた元長岡藩家老の娘、杉本鉞子のことを思い出しました。アメリカに渡った彼女は『武士の娘』を書いてベストセラー作家になりましたけれど、サラが自らの手で自伝を書いたらどんな物語になったでしょう。実に丁寧にサラの人生を追いかけ、行間から読み取れるものがたくさんある、素晴らしい作品だと思います。

  5. No Image

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