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Wings to fly
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強情でワガママで世間知らずな息子に悩まされながらも、愛さずにはいられなかったパパのお話。
本書は宮沢賢治の人生を描いた小説だが、主役は父親の政次郎である。生まれたての跡継ぎ息子に指を握りしめられた時、「目の奥で湯が煮え」、「いい子いい子。べろべろばあ!」をやりたい衝動に駆られたこの新米パパは、優れた経営者であり、利益を文化事業の形で地域に還元する清廉な人物でもある。政次郎の心の内を能弁に語る本書は、彼が何よりも家族を愛し、たいへん子煩悩な男であったことを読者に告げる。

そんな父の眼差しを通して描かれる賢治の姿は、恵まれた環境で育った甘さが際立つ“困ったちゃん”なのだ。すごく新鮮である。

小学校を出てすぐに家業の質屋を継ぐのがイヤ。進学させてもらった後も、パパの仕事キライ。パパと同じ宗派もイヤ。悩めるパパに成り代わって「それじゃ、何がやりたいんだ、お前は!!」と、言ってやりたい。でも、この頭でっかちの賢治クンの危うさが、なんだか可愛くて心配で憎めない。すっかりパパの気持ちに同調させられてしまうのである。そこが、本書の一番の魅力ではなかろうか。

父親目線でなければこうは書けないと最も感じたのは、妹トシの死を描いた『永訣の朝』に関するエピソードである。政次郎はこの詩に激怒する。遺言を書き残そうとした自分を押しのけ、賢治は詩の中にトシの遺言を捏造したのだから。

しかし怒りの中にあっても、政次郎は理解する。詩人・宮沢賢治は「人類理想の遺言として」最期の言葉を書きつけたかったのだと。
”父がどう思おうが、最愛の妹を犠牲にしようが、やっと自立したんだ。”
父親から見た、作家・宮沢賢治の誕生がここにある。

そして、「売れるかな。」「いや、売れんだろう。」「でも、あいつならやるさ。」と変化してゆく心に、またしても父の深い愛情を見せられ・・・私の目の奥でも湯が煮えてしまうのであった。

乗り越える目標である父親が、立派な男だから苦しんだ。何をやってもかなわないから悩んだ。そういう意味で本書はやはり、宮沢賢治が自分の道を見つけるまでの物語なのだ。

「イーハトヴとは、どこにあるのかね。」
「イーハトヴの物語とはつまり、おらたちの物語なんだじゃい。」
政次郎パパ、あなたの最愛の息子の物語は、もう日本中の「おらたち」の物語なんだじゃい。心から誇りに思って良いのですじゃ。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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