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かもめ通信
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あなたならこのお金、どう使う?
第一次世界大戦が終結してからさほど年月がたっていないというのに、世界がまた戦争へと向かっていた1930年代、ヴァージニア・ウルフの元にも<戦争阻止>の名目で、様々な要請が寄せられていた。
<どうすれば戦争を阻止できるとお考えですか?>
<戦争を未然に防ぐためにご協力をお願いしたい>
<署名を、団体に加入を、そしてもちろん寄付もお願いします>

そうした要請に対する返答という形式で書かれたこの長文の論説は、260ページほどの3章だての本文に58ページにわたる原注からなり、本書にはさらに62ページにわたる訳注と20ページほどの訳者解説も収録されている。

いつ読んでも、何度読んでも、理路整然としていて説得力があり、示唆に富んでいて同じウルフの 『自分ひとりの部屋』とともに私にとってお気に入りの1冊だ。

なぜ少々の習い事をさせて貰えるだけでありがたく満足するように求められてきた<教育のある男性の娘たち>が、社会を負って立つべく十分な教育を受けたはずの兄弟たちが再び戦争へと突き進もうとしているのを止め得るというのか。

先の戦争の副産物であるとしてもようやく果たしつつある女性の社会進出においても、なおも多くの差別があり、賃金そのものも低く抑えられているという現状に目を向けることなく、会費だ寄付だと求めてくるのはいかがなものか。

そしてまた女性と祖国の関係はというと……。

女性に対して行われてきた不当な扱いを告発し、そうした状況を改善することなしに、女性が「戦争を未然に防ぐ手伝い」などできないではないかというのである。

そうした意見を

十分な教育なしに戦争の原因を理解できるようにはならないのだから、教育の充実は戦争の防止に役立つはずだと、女子教育を改善する委員会に1ギニーを

自立なくして自己の意見を持ち得ないという立場から、職業の機会均等と待遇の平等の要求し、それを獲得するための活動組織に1ギニーを

さらに、世界の平和と人権擁護の活動に……

と、1ギニー(約1万円)の献金という現実的でわかりやすいたとえを使って、自らの意見を丁寧に説明していく。


100年近くたった今日、世界の多くの国々で、教育や職業における男女の機会均等、権利の平等といった法制度が整えられている。

そうではあるけれども、その実態はどうなのか。

私の暮らすこの国で、医大入試において露骨な性差別が行われていたことが明らかになったのはつい最近のことだ。

新型コロナウイルス感染症対策の一環として配られる特定定額給付金の受給権者が、個々人ではなく世帯主だとされたのもつい先頃のこと(そしてこの国では世帯主の多くは男性である)。

そういった現実に直面し、当惑したり、怒りを感じたりするたびに、私はこの本を開いてみる。
いまここ、まだここ、と思いながら。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2235 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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