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Wings to fly
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「僕という人間をわかってもらいたい。」ベートーヴェンの切なる願いを叶えた、遺髪をめぐるノンフィクション。 #やまねこ祭
ベートーヴェンは、かなりお付き合いし辛い性格の人だったらしい。この本にも、癇癪持ちで揉め事を起こしまくったエピソードが紹介されている。ベートーヴェンが若い頃からずっと身体の不調に苦しめられていたこと、聴力を完全に失った絶望感も、そういう性格の形成と無縁ではないだろう。死後に発見された弟宛ての手紙には、「自分が死んだら主治医の先生に病気の説明書を書いてもらって、この文書に添付してほしい。世間の人々に僕という人間を少しでもわかってもらえるように。」と記されていたそうだ。深い孤独を暗示するその願いは、彼の死後170年を経て叶えられる。ベートーヴェンが亡くなった直後に、ある少年が形見として切り取った、ひと房の髪によって。

本書は、その髪の房をめぐるノンフィクションである。1994年、ふたりのアメリカ人がベートーヴェンの髪を収めたロケットをオークションで手に入れた。ベートーヴェンの音楽をこよなく愛する彼らは、専門家に遺髪の科学検査を依頼する。生涯苦しみ続けた病気の原因を探るため、亡くなった時に体内に存在した薬物や鉱物を調べようというのだ。その検査の行方と、遺髪が人から人へと受け渡されてゆく様子、ベートーヴェンの生涯の物語、3つの要素が交互に描かれてゆく。

遺髪の最初の持ち主ドイツのヒラー家からデンマークの医師に遺髪が渡ったのは、第二次世界大戦の最中である。ヒラー家はユダヤ人であり、誰が、いつ、どういう状況で遺髪を預けたのかわからない。遺髪の最後の持ち主がヒラー家の消息を追い求める過程は、歴史の謎解きとしても人間ドラマとしても非常に感動的だ。

訳者児玉さんの「あとがき」によれば、本書は同じ作者による『ベートーヴェンの遺髪』(白水社)を若い世代向きにしたもので、最初の本の出版後に判明した事実(毛髪の分析結果を裏付けるためのDNA検査結果)が書き加えられている。
毛髪検査の結果はベートーヴェンの病気や聴覚障害の原因を明らかにする。そして、彼が痛み止めの麻薬を使わなかったことも。激しい苦痛を堪えさせた力は、どこから来たのだろう。まるで「この男は何よりも音楽を愛していた」と、科学の力が証明したように思えてならない。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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