かもめ通信さん
レビュアー:
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真実を知りたいがために嘘をつく
(祝 #やまねこ20周年 記念読書会参加レビュー)
舞台は19世紀のイギリス。
ダーウィンの『種の起原』は、科学の分野だけでなく、宗教的、哲学的論争をも引き起こした。
そんな中、牧師であり博物学者としても名の知れたエラスムスが発見した化石は、聖書の正しさを裏付ける物とされて重要視されてきたのだが、実はそれが捏造されたものだったと報道されるに至り、スキャンダルから逃れるように一家は発掘作業に参加するという口実でとある島に移住した。
歓待をうけたのもつかの間、噂は島まで追いかけてきて一気に広まり、誰もが皆、手のひらを返したように態度を変え一家を村八分に。
数日後、エラスムスは謎の転落死を遂げる。
彼の死は自殺とみなされ、神の意に反する大罪としてまともに埋葬すらされない。
エラスムスの娘フェイスは父は殺されたのだと確信し、父の秘密の研究「嘘の木」を利用して真相を明らかにすることを決意するのだった。
「嘘を養分に生長し、その実を食すと真実がわかる」という植物を軸に、嘘と真実、科学と信仰のあいだで苦しむ人々の物語は、少女探偵が活躍するミステリであると同時に、サスペンスでもあり、ファンタジーでもあり、さらには親子の物語であると同時にジェンダーの物語でもある。
女は男より頭蓋骨が小さいのだから知的に劣っているのはあたりまえだとされた時代に、美貌を武器に世渡りをする母親に反発し、父のような学者になりたいと願う14歳の少女フェイス。
だがしかし、その敬愛してやまなかった父からも、ただ「女」に生まれついたがためにどんなに努力しても全く認められなかったのだ。
それでも彼女はあきらめない。
真実を知るためなら嘘をついてもいいのかという苦悩をかかえながらも、果敢に謎に挑むのだ。
フェイスをとりまくあれこれに胸が詰まり、彼女の心の叫びが読者である私の皮膚をチリチリと刺激する。
一気読み必至の展開にもかかわらず、なかなか読み進められなかったのは、あまりにも胸が痛かったからだ。
フェイスの心に寄り添うつもりで読み進めながら、同じように苦しんだであろう多くの女たちのあれこれにも思いをはせる。
原題は“The Lie Tree”
2015年のコスタ賞児童文学部門を受賞すると同時に、同賞の全部門最優秀賞にも選ばれている。
児童文学が全部門の最優秀賞を取ったのはフィリップ・プルマンのライラの冒険シリーズ『琥珀の望遠鏡』以来の快挙だとか。
その高評価にも思わず納得の一作。
翻訳はやまねこ翻訳クラブ会員の児玉敦子さん。
2ヶ月にわたって開催してきた祝 #やまねこ20周年 記念読書会の最終盤に、こんな素晴らしい新刊を紹介できたことをとてもうれしく思う。
ダーウィンの『種の起原』は、科学の分野だけでなく、宗教的、哲学的論争をも引き起こした。
そんな中、牧師であり博物学者としても名の知れたエラスムスが発見した化石は、聖書の正しさを裏付ける物とされて重要視されてきたのだが、実はそれが捏造されたものだったと報道されるに至り、スキャンダルから逃れるように一家は発掘作業に参加するという口実でとある島に移住した。
歓待をうけたのもつかの間、噂は島まで追いかけてきて一気に広まり、誰もが皆、手のひらを返したように態度を変え一家を村八分に。
数日後、エラスムスは謎の転落死を遂げる。
彼の死は自殺とみなされ、神の意に反する大罪としてまともに埋葬すらされない。
エラスムスの娘フェイスは父は殺されたのだと確信し、父の秘密の研究「嘘の木」を利用して真相を明らかにすることを決意するのだった。
「嘘を養分に生長し、その実を食すと真実がわかる」という植物を軸に、嘘と真実、科学と信仰のあいだで苦しむ人々の物語は、少女探偵が活躍するミステリであると同時に、サスペンスでもあり、ファンタジーでもあり、さらには親子の物語であると同時にジェンダーの物語でもある。
女は男より頭蓋骨が小さいのだから知的に劣っているのはあたりまえだとされた時代に、美貌を武器に世渡りをする母親に反発し、父のような学者になりたいと願う14歳の少女フェイス。
だがしかし、その敬愛してやまなかった父からも、ただ「女」に生まれついたがためにどんなに努力しても全く認められなかったのだ。
それでも彼女はあきらめない。
真実を知るためなら嘘をついてもいいのかという苦悩をかかえながらも、果敢に謎に挑むのだ。
フェイスをとりまくあれこれに胸が詰まり、彼女の心の叫びが読者である私の皮膚をチリチリと刺激する。
一気読み必至の展開にもかかわらず、なかなか読み進められなかったのは、あまりにも胸が痛かったからだ。
フェイスの心に寄り添うつもりで読み進めながら、同じように苦しんだであろう多くの女たちのあれこれにも思いをはせる。
原題は“The Lie Tree”
2015年のコスタ賞児童文学部門を受賞すると同時に、同賞の全部門最優秀賞にも選ばれている。
児童文学が全部門の最優秀賞を取ったのはフィリップ・プルマンのライラの冒険シリーズ『琥珀の望遠鏡』以来の快挙だとか。
その高評価にも思わず納得の一作。
翻訳はやまねこ翻訳クラブ会員の児玉敦子さん。
2ヶ月にわたって開催してきた祝 #やまねこ20周年 記念読書会の最終盤に、こんな素晴らしい新刊を紹介できたことをとてもうれしく思う。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:414
- ISBN:9784488010737
- 発売日:2017年10月21日
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